マグン王国は、王都マグンからトンカ平原の街道を行った先にある小さな町、マタイサ。 「こんちはー」 郵便局のドアを開けて、グランが入ってきた。 「おお、グランか! なんだ、もうよくなったのか」 ゲレットが驚いたようにデスクから立ち上がった。グランは袖をまくって力こぶを作る。 「大魔術師グラン・グレン、ここに復活よ」 「こんにちは、ゲレットさん。そういうことで、今日からグランが復帰します」 遅れてリブレが入局し、担いでいた郵便物の入った袋をカウンターに置いた。 「リブレから聞いたぞ。なんでも死のふちをさまよったんだってな」 「ああ、よく覚えてないんだけど、二日くらい気を失ってたらしいんだ」 「ほんとにこいつ、やばかったんですよ。騎士団のプリーストとリノがつきっきりで看病したんです」 ゲレットはグランの頭をつかんで、髪をくしゃくしゃとした。 「ぜんぜん、そんな風には見えないけどな。なんだって、そんなことになったんだ」 グランはゲレットの手をどけて肩をすくめた。 「さあ。俺、当日のことを何にも覚えてないんだよね。リノに聞く限りだと、ミハイルって奴とマネーマッチをした時に、強く頭を打ったんだと。まあ、もちろん俺が勝利した後のことだったみたいだけど。きたねえよな、勝負がついたあとに、襲ってきやがったらしいんだぜ。まあ金は手に入ったから、いいけどね」 この事件の真相については、リノ、ミハイルをはじめとした一部の人間しか知らなかった。 というのも、グランがあの日の決闘と、その後のアクシデントについてなにも覚えてないことを知ったアイが、その場で彼らに厳口令を強いたのである。 騎士団のプリーストも、つらい記憶を敢えて思い出させることもないと、これに同調した(これを聞いたアイは複雑な表情だったが)。リノとミランダだけは最後まで抵抗したが、結局「グランのために」という大義名分のもと、あの日起こった騒動はなかったことにされてしまった。 この出来事は、アイからすれば一生ものの大恥であった。だからこそ、グランにだけは知られたくなかったのだろう。こうして実ったと思われた恋は、また振り出しに戻ってしまった。 ちなみにリブレも、頭を打った程度にしか聞いていない。 「それで、復帰早々で悪いんだが、ひとつ頼みたいことがある」 ゲレットは硬貨の入った袋を出しながら言った。 ふたりは思わずたじろいだ。 「ま、またか。なんかイヤな予感しかしねえんだけど」 「なんだ、もしかしてお前ら、仕事をくれる『恩人』の頼みが聞けないのか? あーあ、おれは、別に構わないんだけどな。でも考えてもみろ。お前らに報酬を渡してるのは誰だろうな。お前らがギルドに所属せずにやっていけるのは、誰のおかげだろうな」 半ば脅迫じみたゲレットの言葉に、抵抗するすべはなかった。二人は依頼を引き受けることにした。 「よし、決まった。さすがおれの見込んだふたりだ。おい、入ってこい」 ゲレットは後方のドアに声をかけた。 きいという音と共に、恰幅のいい青年が屈託のない笑顔で入ってきた。 リブレとグランは思わず声をあげた。 「やあ」 「前に紹介したな。マタイサ自警団のハロルドだ」 マタイサ自警団。文字通り城壁のないマタイサをモンスターから守るために作られた組織のことである。法で定められたギルドとは違ってゆるい雰囲気のため、傭兵団とも呼ばれる。ハロルド・ヘイズはこの自警団の副団長を勤めている。 「久しぶりだね、二人とも」 「は、はあ」 グランとリブレは歯切れの悪い返事をした。二人は以前、ジャグアスの女神の追跡を巻くためにゲレットを通し、彼に会っている。そして、その夜に仕事をすっぽかし、逃げ出していた。 「覚えてるな、リブレ。お前らはこいつに、迷惑をかけたよな?」 「は、はい……あの時は、すみませんでした」 「だったら話は早い。今日、夜警の人数が足りなくなるそうだから、手伝ってやれ」 グランがそろそろと手をあげた。 「ほ、報酬は……」 ゲレットは無言でカウンターを叩いた。それだけで回答としては充分だった。 要するに、貸しを返せということなのだろう。 「ゲレットさん、そんな態度で彼らを怖がらせないでください。グラン君、リブレ君。あの日のことは……確かに迷惑だったが、よほどの理由があったんだろう? 安心しなさい、報酬はしっかりと私から出させてもらう」 ハロルドが胸を叩くと、グランはとたんに明るくなった。 「やったぜ! さっすが、ハロルドさんは話がわかるなあ」 「ハロルド、こいつらをあまり甘やかすんじゃない。とくにグランはつけあがるぞ」 しかし、ハロルドは笑顔を崩さなかった。 「私なりのやり方というものがあります。さあ二人とも、来てくれ」 こうして二人はマタイサ自警団の手伝いをすることになった。 三人は町の最北端にある自警団の建物までやってきた。もともと酒場だったものを改築して再利用したものらしく、かなり古びている。ここは本部のようなもので、町の入り口付近に設置されている見張り用の高台と連絡が取れる仕組みになっている。 「それで、僕らは具体的になにをすればいいんでしょう」 リブレがたずねた。 「夜警とは言ったけど、実際はここに詰めていてもらうだけさ。見張りはゲート近くにある高台の連中がやってくれる。モンスターなんて現れることの方が少ないから、あまり気負わずにやってくれ。もちろん、有事の際は戦ってもらうけどね」 「ラクショーっすよ、ラクショー。それで、額はいくらですか?」 リブレはグランをひっぱたいた。ハロルドはそれでも笑顔のままである。 「君たちの働き次第ってことでどうだい」 「でも、モンスターが出なかったら働きもくそもないじゃないんスか」 「グラン、やめろよ。ハロルドさん、報酬はゲレットさんの郵便配達と同じくらい出してもらえれば十分ですから」 「わかった。ただし、今回は逃げないでくれよ」 ハロルドの問いかけに、二人は返事をした。すると、彼は二人の手に肩をかけて、また言った。 「逃げないでくれよ。絶対だからね」 「……どうしてそんなに念押しするんですか」 「逃げないんだね」 二人が沈黙のあと同意すると、ハロルドはようやく表情を変えた。 「実はね……」 その時、目の前のドアが勢いよく開き、何人かの男女が飛び出すようにして出てきた。 「ハ、ハロルド副団長!」 「べスタ……」 ベスタと呼ばれた剣士はすっかりとやつれ、髪や服装もぐしゃぐしゃだった。しかし、リブレとグランの二人を見て、おお、とうれしそうに声をあげた。 「やっぱり見つかったんですね、代わりが。ああよかった」 「ああ、すまなかったな。今夜はこのリブレ君とグラン君が夜警をしてくれることになった。みんな、すぐに帰って眠りなさい」 すると、自警団の集団はおおいに喜びだした。リブレとグランは首をひねると共に、何か嫌な予感を感じた。 《リブレ、どうする》 グランはアイ・コンタクトを送った。リブレは軽くかぶりを振った。 《ゲレットさんの頼みじゃ逃げられない》 グランは目をつむった。確かにな。 「それじゃ僕らはこれで。あとはどうぞよろしく」 ベスタたちはそそくさと帰っていった。 「あの、ハロルドさん。状況がよくわからないんですけど」 「あ、ああ。じゃあ、とりあえず中に入ってもらえるかい」 ハロルドがドアをあけた。リブレとグランは詰め所の中へと入っていった。 中は小さな空間になっており、また先にドアがあった。酒場時代のなごりだろう。 「ちょっとここで待っていてくれ」 「なんなんスか、さっきから。モンスターがいるわけでもあるまいし。もう足がパンパンだ。詳しいことは中で話しましょうよ」 「あっ、やめなさい!」 グランがハロルドの制止を聞かずにドアをあけたその時だった。 「バーン!」 甲高い声と共に、グランの顔面に何かが命中した。 「がっあっ!」 グランは顔を押さえて悶絶する。 「グランっ!?」 「バーン!」 グランに駆け寄ったリブレの顔にも、声とともに何かがぶつかった。二人が同じ体勢でもんどりうったあと、どさと分厚い本が地面へ落ちた。 「ミ、ミゲルぼっちゃん! やめてください!」 ハロルドがあわてた様子で部屋の中に入ってゆく。しかし叫び声はやまず、本が次々と宙を舞う。 「い、いってぇ……って、なんじゃこりゃ!」 グランは思わず大声をあげた。 部屋中が本や武具、倒れた家具などでひどく散らかっていた。中には二人と同じように顔を押さえてうずくまるハロルドと、年の頃七、八歳くらいの少年が仁王立ちしていた。 「こんのガキ! てめーか、いきなり本なんて投げてきたのは!」 グランが魔力≠練ろうとしたのを見て、ハロルドがあわてて止めに入る。 「や、やめてくれ! この子は、町長の息子さんなんだ」 少年はそれを聞いて高笑いした。 「そうだぞ! やめておけよ、まほうなんて。パパが知ったら、すごく怒るんだぞ」 リブレとグランは、同時に言った。 「そういうことか」 「それで、もうわかってるとは思うんだけどね。今日の夜警はちょっと特殊なんだ」 ぐちゃぐちゃの詰め所の中、倒れたテーブルに腰掛けるハロルドはため息をついた。視線の先にいる少年ミゲルは、木製のおもちゃに夢中になって遊んでいる。 「どうして町長の息子さんなんかがここにいるんです」 「実は、先週からマタイサの町長とうちの団長が遠方の自警団体の視察に出てしまっていてね。一人息子のミゲルぼっちゃんを、こちらで預かることになったんだ。でも、見ての通り彼は恐るべき少年でね。詰め所はごらんの有様だ。ああやって自分の世界に浸っている分には、かわいいものなんだが」 「なるほどな。確かに、イキナリ他人に本を投げるなんてどうかしてるぜ。親の顔が見てみたいね。ああ、いて。『ヒール1』のスクロール、ありません?」 ハロルドは何も言わなかった。 「君らにこんなことを頼むのは申し訳ないと思っている。しかし、こちらとしてもメンツというものがあってね。この数日間で、団員たちはすっかり彼の子守に疲れきってしまって、本来の機能を完全に失っている。明日になれば、町長たちが帰ってくる。こんな情けない姿を見られたら、団長からも、町長からも、何を言われることやらだ」 そこでハロルドは考えた。明日に備えて団員を全員休ませ、自分は建物を元通りにする。そのためにミゲルの子守役が必要だったというわけである。 「だから頼む。今夜一日、夜警をしながら彼の相手をしてくれ。できるだけ、被害は出さないように」 「そんなこと言っても、夜になれば勝手に寝るんじゃないんですか。子供だし」 ハロルドはリブレの肩をつかんだ。 「どうか彼をなめないでほしい。彼は普段とは違う状況にテンションが上がってしまって、暴れる、自分の時間に浸る、食べ物を食べる、眠る。これを数時間サイクルで繰り返している。昼も夜もない」 そんなバカな、と言い返そうとしたところで、どかんと音が聞こえた。木のおもちゃをバラバラにしたミゲルが立っている。 「そこの、ふたり。ハロルドじゃないふたり。なまえを教えろ」 「おいガキ、調子こいてんじゃ……」 ハロルドがグランにつかみかかった。 「口答えはいけない。一番まずい」 ハロルドは必死な表情でまくしたてた。さすがのグランも、その迫力に圧倒され、何もいえなかった。 ハロルドは立ち上がり、笑顔を作った。 「ぼっちゃん、剣士の方がリブレ君、魔術師の方がグラン君です。今夜はこの二人と一緒ですから、仲良くしてあげてください」 「わかった、いいだろう! リブレとグランだな! じゃあ、ちょっとこい、リブレ、グラン」 二人はおずおずと立ち上がった。 とりあえず、言う通りにした方がよさそうだ。 ミゲルは腕を組み、二人を値踏みするように見上げた。 「なんか、弱そうだな。おまえら、冒険者か」 「見りゃわかるだろ」 グランがつっけんどんに返事をする。ミゲルはグランをにらみつけた。 「おまえ、なまいきな奴だな」 「どの口が言ってんだ、ああ?」 リブレは肘でグランをつついた。グランは舌打ちしてリブレの肩をつかみ、ならお前がやれとばかりにぐいと前へ押し出した。リブレはミゲルにほほえみかけた。 「ぼっちゃん、僕らは確かに弱いんです。でも、遊びはきっと、ほかの人より得意だよ。さあ、一緒に遊ぼう。何がしたい?」 「うーん、そうだな。じゃあその剣、貸してよ」 リブレはベルトをはずし、剣をミゲルにそっと手渡した。やはり子供には重いと見えて、ミゲルは顔をしかめる。リブレはそれを支えてやった。 「鞘から抜いちゃダメだよ。危ないからね」 しかし、ミゲルは無視して鞘から剣を抜いてしまった。 「とおーっ!」 「うわ! 危ないよ!」 ミゲルは剣を力いっぱい床にたたきつけた。 「いいじゃん、モンスター退治ごっこをしようよ。リブレがモンスター役ね。ぼくが今から剣で斬るから、斬られて」 「冗談じゃない!」 後ろで見ていたグランは思わずため息をついた。 「おい、グランもだからな。僕に斬られるんだぞ」 「いいぜ。だけど俺はモンスターだからな。襲いかかってくるぞ。真剣勝負だ」 「のぞむところだ。こい、勇者ミゲルが相手だ!」 グランはにこりと笑って、剣の峰を思い切りけ飛ばした。当然、ミゲルの握力ではひとたまりもなく、剣は横へと飛んでいった。 「ぐわーお。ハイ、勇者は死んでしまった。おしまい」 グランはミゲルの頭をぺしっとたたいた。リブレが目をひんむいた。 「バカ、やりすぎだ! ハロルドさんの言ったことをもう忘れたのか」 「うるせえ。こういうガキには、教育が必要なんだよ」 「……たたいたな」 ミゲルはうつむいたまま言った。リブレはあわててフォローする。 「ぼっちゃん、その、ごめんね! 今のなし! もう一回、今度は木剣かなにかでやろ」 「たたいたな、たたいたな! うっ……たたいた、たたいたなーっ! あーーっ!」 リブレの声はミゲルのすさまじい泣き声にかきけされた。 ミゲルは奇声をあげながらあたりにあったものを投げ始めた。本、ちいさな椅子、ガラス瓶。 「ガラスはまずい、受け止めろ!」 掃除をしていたハロルドが叫んだ。あと、木製のおもちゃの直撃を食らった。 「うおっ!」 リブレはガラス瓶を抱え込むようにしてキャッチした。が、今度はガラスのコップに頭を殴られた。 「だから言ったろう、口答えはダメなんだ」 ハロルドは少し機嫌を悪くして、二人に言った。 「そんなこと言ったって、あのガキ、いきなり剣で斬られろとか言い出すんスよ」 「彼に武器を与えてはいけない。そういう時は木剣で叩かせればとりあえず満足してくれる」 「とにかく、あの子の怖さはよくわかりました。気をつけよう、グラン」 頭に包帯を巻いたリブレはグランの胸を叩いた。グランはうんざりとした様子で拳を返した。 「さっきのふたり、ちょっとこい!」 ミゲルの声が聞こえてくる。ハロルドはあごをつきだした。 「二人とも、本当に頼むよ。次に暴れられたら、本当に困る。困りすぎて、ゲレットさんに何か言ってしまうかもしれない……」 ハロルドのせっぱ詰まった様子に、二人は脂汗を浮かべた。 「ぼっちゃん、ごめんね。さあ続きをやろう。木剣を持ってきたよ」 リブレは明るい表情で木剣を差し出したが、ミゲルはそれを手で払った。 「モンスター退治はあきた。次はたたかいがみたい。グランとリブレで、殴りあいをしろ」 リブレは息を吐いて、グランを見る。 「やろうぜ。ぼっちゃんがみたいんだと」 「しょうがねえな」 二人は仕方なく対峙して、拳を眼前に据えた。 「じゃあ、一発顔面に食らった方の負けにしよう」 「そんなんじゃ、つまらないよ」 ミゲルが口を挟んだ。 「どっちかが死ぬまで殴りあえ」 二人は閉口する。だが、これは好都合でもあった。殴りあいを長引かせれば、時間稼ぎになるからだ。リブレとグランは頷きあった。 「さあやれ!」 ミゲルの声と共に二人は格闘戦を始めた。 リブレは父親の仕込みで、体術にはそこそこの心得がある。対してグランも、けんか屋の勝負を受ける程度には自信があった。 リブレが少しかがんで、勢いをつけた右拳を振るわせる。グランはこれをスウェーバックして、さらなる追撃も華麗にはじいた。 「なんだよ、結構やるじゃいか、グラン」 「少なくとも、お前よりはな」 リブレはにやりとして、拳を握った。グランも同じ表情で構えを作る。 二人の拳が交錯する。……ところに、また木製のなにかが飛んできた。 二人はふいをつかれ、再びこれを食らう。 「もうあきた。なんか、ぜんぜんダメだな。もっとビシビシっとできないの?」 「こっ、この、ガキィ……」 頭を押さえたグランは、青筋を立てて起きあがったが、ハロルドに睨まれていることに気がついて怒りを静めた。 「次は、そうだな。馬になれ。グラン、ほらはやく、馬になれよ」 こうして地獄は続いた。 数時間後、ミゲルはゆっくりと眠りについた。 リブレとグランはそれを確認すると、その場に倒れ込んだ。二人とも服装や髪がめちゃくちゃだ。 「やっと眠ってくれたか。これで数時間はなんとかなる。よく耐えてくれたな、二人とも」 掃除を続けるハロルドが部屋に顔をのぞかせた。 「ほんとに悪魔だぜ。このガキ……」 グランは顔についたインクの落書きを落としながら言った。ハロルドは苦笑する。 「町長は子煩悩だからね」 「それにしたって、異常ですよ」 その時、ミゲルがベッドの上でもぞもぞと動いた。三人はびくりとなる。 「……ママ」 沈黙のあと、三人はそれが寝言だと判断し、息をついた。 「許してやってくれ。マタイサ町長は下手すれば王都のギルドマスターよりも忙しい人だし、彼の母親……つまりマタイサ町長夫人は、三年前に病気で亡くなったんだ。彼は、寂しいのさ」 グランはそれを聞いて、少しいらついた顔をした。 「こいつ、友達はいるんですかね」 ハロルドの表情がすこし曇った。 「少なくとも、私は見たことがないな」 グランは目をふせ、舌打ちした。 その時。 リブレががばりと起きあがった。 「なんだよ。ガキが起きちまうだろ」 リブレはグランの言葉を手で遮って、こめかみに手をあてて目をつむった。 「うん。間違い、ないな。ハロルドさん、モンスターが町の近くまで来ています」 ハロルドは眉をひねった。 「突然どうしたんだい? モンスターが周辺に現れたときは、高台の見張りが教えてくれるって言ったろ」 ハロルドがそこまで言ったところで、どこからか鐘の音が聞こえた。彼は大急ぎで詰め所の壁に取り付けられた梯子をのぼり、屋根部分のふたを開いて上半身を乗りださせた。 少しして、彼はふたを閉めて言った。 「モンスターが出たそうだ。手品の種はあとで聞かせてくれ。すまないがどちらか来てくれないか」 |