ある格闘家がいた。
彼は、とにかく上を目指したいと考えた。強さを求めて、毎日修行に励んでいた。
だが、強さとはいったいなんなのか。彼は何年も悩み続けながら、同志たちと凌ぎを削り、己の技を磨いた。
ある日、いつも通りに修練を続けていると、体から光≠ェほとばしった。悩みはふきとんだ。そうして彼はある力の存在を知った。
その後、彼は師に別れを告げ、厳しい修行の旅に出た。やがて何十年にも及ぶ旅を経て、彼の光≠ヘ完成を迎えた。
その頃には、彼の肉体はピークを越え、衰えが始まっていた。力を求めるのにも疲れた彼は、故郷へと戻ることにした。
帰り道、彼はある山村で火事の現場に出くわした。村はすっかり焼けてしまい、生き残った人間もいなかった。ただ一人の少年を除いては。少年は、まだ一人では生きてゆけないほど幼かった。
彼は、身よりのなくなった少年に、ひとつの握り飯を与えた。少年は涙を流しながら、必死にそれを頬張った。
彼は、少年をこのまま見殺しにするわけにもいかず、故郷へと連れ帰ることにした。
それから、数年が経った。彼は少年に自分の技術を伝えるつもりだったが、少年には全くと言っていいほど才能がなかった。また、無口で感情表現に乏しかった。彼は少年の行く末を憂いていた。
そんな時、別の少年がひょっこりと現れた。もう一人の少年は活発で、恐るべき才能を持っていた。二人はまるで対照的だった。
また、暗かった少年も影響を受けて、明るさを取り戻し始めた。彼は、活発な少年と一緒に暮らすことを提案した。はじめこそ断られたが、数ヶ月後、運命の歯車が音をたて、それは実現した。
それからまた、数年が経った。二人は強く成長した。お互いが面白いくらいに影響を受け合って、まさに理想的な関係だった。この様子を見ているだけでも、彼はとても楽しかった。
そんな時、ある噂を聞いた。
彼のかつての友人であり、同志であった男が、彼らの師を手に掛けたのだという。また、光≠フ力を利用して悪事を働いているとのことだった。
初めこそ気にしていなかったものの、その影響はどんどん大きくなっていき、いつしか世界にも影響を与え始めようとしていた。
男に光≠フことを教えたのは、ほかならぬ彼だった。
彼は深く責任を感じた。それは弟子たちを鍛えることにも、影響が出かけていた。
彼は決心した。男を止めなければ。
彼は青年となった弟子たちを旅へとけしかけ、男を止めるための準備を始めた。
リュウは、ある島へとたどりついた。ほとんどが鋭い岩肌で、とてもではないが人間が住めるような環境ではなかった。天気も悪く、豪雨が降りそそぎ、雷鳴がとどろいた。
だが、迷いなく、まるで道があるみたいに彼は進んでいった。
先に、小さな洞窟を見つけた。彼は、その中へと入っていく。当然のことながら、中は真っ暗だ。
リュウは波動≠手のひらで展開させて、即席の灯りを作って奥へと向かった。
そうして、少し開けている場所へと出た。
リュウは何者かの気配を感じて、身をこわばらせる。
「リュウか」
何者かが、言った。すると、洞窟内が少しだけ明るくなった。青白い波動≠フ光だ。
「やはり、来たか」
何者かが、灯りに照らされて、顔半分だけを覗かせた。
鬼。人間の顔面の構造ではない。リュウは道場の阿修羅像を思い出した。だが、完全に姿を現した彼の体は、人間と全く同じだった。リュウと同じような胴着を来ている。
二人の目があう。
「俺は」
リュウが口火を切った。
「……俺はあの時、ベガに『真空波動拳』を撃った時、無意識にやつが生き残れるように、威力を限界にまで落とした。その結果、ほとんどの力が失われてしまって、結果、あいつは死ななかった」
リュウは目をつぶった。「死ななかったんだ。生きていたんだ」
「それがどうした」
口が少しだけ開いて、返事が帰ってきた。
「ほっとしたんだよ。あんな奴でも、殺さずにすんだって。それなのに。ベガがしゃべっている途中で、別の真空波動≠ェ展開された」
それは、リュウだからこそ気づけた、そして、リュウでないと気づけなかったであろうことがらだった。
「そうして、あんたが現れた」