ストリートファイター2N 波動伝
ROUND.7
「再会! 紅蓮の格闘王」 part3


 さっきまでの快晴はどこに行ったのか、天は一転、曇り空だ。
 胴着に着替えたオレは、何度かジャブからのコンビネーションを確認する。よし、調子はまずまずだ。
「リュウ、どうだった、世界への旅は。少しは強くなったんだろうな」
「ああ、広かったよ、世界は。そして深かったよ、ストリートファイトは」
 オレたちは向かい合って、距離を詰めていった。
「じゃあ、まずは復習と、ウォーミングアップからだ」
 こちらが仕掛ける。思い切り振りかぶった右ストレートだ。リュウはそれを流れるような動きでやり過ごした。だが、オレはここから腕を折り返して、エルボーに行った。
 リュウは簡単にそれもさばくと、オレの肩を掴んで背負い投げた。体が宙に舞うが、波動≠空中で拡散させ、全身をひっくり返して着地してみせる。
「オーケー。ストリートファイトのことは理解したようだな」
 顔を向けると、もうリュウの姿はない。上を見ると大きく跳躍していた。転がって移動すると、その刹那、さっきまでいた地面が大きく穴をあけた。思わずぎょっとなる。
「まだ確認の途中だぞ。いきなり本気でかかってきやがって」
 それでもリュウは聞き入れずに、間髪いれずに攻めかかってくる。だが、その全てが完璧に見えた。大した成長度合いじゃないか。完全にガードしてみせた。
 しょうがない奴だ。それなら、こちらも思い切りやらせてもらおう。
 リュウの眉が動いた。動じたすきを狙い、右フックを狙う。反応が遅い。オレは入ったと確信した。
 だが、またしてもゆらっと流れてリュウはいなくなり、拳は空を切った。だが、息遣いがどこかから聞こえてくる。気づいた時には目の前に拳があった。
 とっさにかわすが、三発程度顔にもらう。たまらずオレは後ろへとステップした。
「ちいっ、なかなかやるじゃねえか」
 オレは波動≠練った。リュウもそれを見て、同じ体勢に入る。
「波動ォォ拳!」
 波動拳同士がぶつかりあう。どうやら威力はそう変わらぬようで、二つとも相殺されて散った。花火のような重音が耳の間に突っ込まれた。
 そのまま撃ち合いが始まった。波動≠練る、撃つ、呼吸。練る、撃つ、呼吸。このリズムがいかに早くできるかの勝負だ。修行でもよくやったが、これまでオレは一度も負けたことがない。
 撃ちあいは互角だった。リュウの奴、それなりに成長している。だが、回数を重ねるごとに、ちょっとずつオレが優勢になる。そろそろこちらもきつい。息も乱れてきた。ここで決める。
 オレは一気に波動≠練るスピードを速めた。すると、ついにリュウへと一撃がぶつかり、打ち上げた。リュウは、さっきオレがやってみせたのと全く同じ方法で、着地した。追い討ちするが、かわされる。たまたま置いてあった廃材のドラム缶が拳大の穴を開けた。
 だが、勝ったのだ。まだ、あいつはオレのレベルまで至っちゃいなかったのだ。
「ふん、リュウ。まだまだだな。全く、なっちゃいねえよ」
 すると、リュウは静かな声で言った。
「復習はこんなもんでいいか。ケン、そろそろ本気で来てくれ」
 何を言っているのか。挑発のつもりだろうか? なかなか色々なことを覚えたもんだ。
「はっ、かっこわるいぜ、そんな強がりはよ」

 オレの言うことを無視して、リュウは波動≠練りはじめた。すると不可解なことに、周りから火花のようなものが発生した。すぐに、体が動いた。あれを食らうのはやばい。
「波動拳ッ!」
 リュウの波動拳はオレをかすめ、さっきとは別のドラム缶に飛び込んでいった。缶は空中に浮かび上がり、三回ほどはじけて千切れると、ぼろぼろになって海へ落ちていった。まるで透明な誰かが何度も殴りつけたかようだった。
 なんだ、今のは。恐ろしい予感が、オレの思考によぎった。同時に、腹がくの字に大きく曲がった。リュウが、もうこちらまで来ていたのだ。油断した。
 殴りかかろうとするが、姿が見えない。今度も上か、と見上げるが、直後、足が蹴りつけられる。前のめりになるところで、やっと奴の姿が見える。
 あの火花波動を、また溜めている。オレは歯をくいしばって、体に駐しておいた波動≠放出して横に飛んだ。リュウの波動拳はまた外れる。チャンスだ。
 体を掴み、押し倒すと勢いをつけ、回転を始める。これはオレが旅を経て編み出した奥義だ。食らって無事な奴はこれまでいなかった。
「おらぁ!」
 勢いにのせて、思い切り地面へと叩きつける。リュウは動かない。
 汗がふきでている。いつの間にか港には船が到着していて、乗客たちがオレたちの戦いを見ていた。イライザは遠めから心配そうにこちらを覗いている。
「どうだい、オレの地獄車は。楽しいドライブだったろ」
「面白い技だな」
 リュウは埃を払って立ち上がった。ぜんぜん、効いていない。さすがに心が折れそうになる。実はやせがまんしていて、オレの動揺を狙っているだけなんじゃないか。そうであって欲しいと心から思った。
 リュウはこちらへ進んでくる。どうして奴の動きが捉えられないのか、わからない。ただひとつ言えるのは、今戦っているのは、これまでのあいつじゃない。戦闘スタイルそのものが違う、まるで別の人間と戦っているようだ。そして、そのスタイルも、これまでに見たことがないようなものだ。強い。これまで戦った誰よりも強いと思えた。
 そこからファイトは徹底的な接近戦の様相と呈した。早い話が、殴り合いである。だが、その表現がふさわしいのはほんのちょっぴりだった。オレが一発殴るまでに、リュウはするすると移動しながら五、六発の拳をこちらにぶつけてくるのだ。一体何がどうなってあんな動きができるというのだ。
 さすがに限界が近づいていて、膝をつく。もうオレはダウン寸前だ。このまま負けるのは嫌だ。最後に、いちかばちか、渾身の一撃をくらわせてやろうとオレは考えた。
 リュウが近づくのを感じて、いっきに波動≠放出した。
 すると、昇竜拳はあいつに見事に命中した。オレは自分が逆転したのだと感じた。いつものように、その様子がコマ切れに写る。
 リュウの表情が、少しずつ変化していく。
 
 その顔は、悲しみに満ち溢れていた。
 澄んだ瞳が、こちらを向いている。

→NEXT
←スト2N TOP