ストリートファイター2N 波動伝
ROUND.6
「友への誓い! 復讐の男ガイル」 part8


 思わず息を飲んだ。動けない。あの体勢は、間違いなく波動≠ずっと溜め続けているのだろう。近づけば、ソニックの餌食だ。ガイルが攻撃してくるタイミングは、ある意味チャンスでもあった。だが、それすら消えたのだ。真の戦法はこっちだったのだ。
 何もできずに膠着状態が続く。たまに飛んでくるソニックを処理するだけで精一杯だ。このままでは、また負ける。今できる最善の方法は、やはり一撃を狙うことだろう。
 ソニックを撃つタイミングで、今度は宙に飛んでみた。避けるためではなく、攻撃のためだ。ガイルはそれを待っていたと言った具合に飛び上がると、俺の顎を強烈な蹴りで打った。波動≠フ勢いを利用した、昇竜拳と同じタイプの必殺技だ。
「無駄だ。おれのサマーソルトキックはやぶれん」
 俺は地面をかいたあと、身を起こした。体にだいぶがたが来ている。もう一発あれを食らうわけにはいかない。だが、やはり別の技を持っていたか。これで突破口が見えた。
「ぐっ、ちくしょう。こうなりゃ、やけだ!」
 大声でわめきながら、俺はガイルへ向かって突進すると、もう一度ジャンプした。
「こんなことで、やぶれかぶれになってしまうとは。底が見えたな、リュウ!」
 ガイルは静かに言った。だが、そうじゃない。
 そう見せているだけだ。
 サマーソルトキックが、こちらへと向かってくる。このまま落ちれば餌食になるだろう。そう、落ちればの話だ。
 波動≠展開させ、空中で踏み込みをうつ。バルログ戦でやったことと同じである。あとはどうなったか、お分かりであろう。俺は「空中竜巻旋風脚」で、サマーソルトをかわしてみせたのだ。身動きが取りにくい空中では、攻撃する方も油断するのだろう。簡単にすり抜けることができた。
「なにいっ!?」
 着地すると、ガイルが飛んでいる方向へと駆けた。波動≠フ力で上昇する技は、前にも言ったようにリスクが多い。無謀備に落ちて来るガイルの落下点で、俺は構えた。
「そういう技は、こうやって使うんだ!」

 ありったけの波動≠集めた昇竜拳は、ガイルの腹にえぐりこんだ。
 その瞬間、ガイルの力・サムシング・グレイト≠ェ俺に流れ込んで来るのを感じた。同時に、視界がはじけて真っ白になる。
 ナッシュの笑顔が見えた。これは、ガイルの記憶だろうか?
 ふたりの会話が、姿が脳内に巡ってゆく。ああ、本当に彼らは心を通じていた親友だったのだ。
 誰かとしゃべっている。……あれは、ゴウケン師匠だ!
 師匠はたしかに、この基地にいたのだ。ナッシュと一緒に資料らしきものを見つめている。
 ふと、師匠が口を開いた。
『止めねばならん。私のいのちに代えてでも』
 
 一体なぜ、何を、どうやって……?
 もっとこの光景を覗きたいと思ったが、そこで現実に引き戻された。まだ技の途中だ。拳をしっかりと打ち抜く。体を浮かせるほどの波動≠放出した後なのだ、このタイミングのダメージは効くだろう。
 予想通り、地面へと落下したガイルは、しばらく立ち上がらなかった。近づくと、ゆっくりと上半身を起こした。
「ちっ、油断したぜ。あれがよけられるようじゃ、このまま続けても勝ち目はあるまい。今回は潔く負けを認めよう。強くなったな」
 ガイルが俺と戦ってくれた理由が、なんとなくわかった。

 門の前で、俺たちは握手を交わした。
「リュウよ、最後に言わせてくれ。お前は、おれの見たところ……純粋すぎる。その性格のせいで、この先お前にとって耐え難いほど辛いことが起こるかもしれん。だがその時、ひとりで悩んだりするんじゃない。もう友人を失うのは、耐えられん」
 ガイルは数字の書いてある厚紙を俺に手渡すと、ポケベルを取り出し、指差した。どうやら番号のようだ。
「グッドラック、リュウ。また会おう」
「ああ。色々とありがとう。いつか、また!」
 俺たちは手を合わせて、逆方向に歩き出した。

 その頃クルーたちは整備を終えて、テーブルでポーカーを始めていた。別の部隊の隊員がやってきて、いすに腰掛けた。
「おい、お前らガイル少佐を見たんだってな」
「ああ、見たよ。あの、くそみてえにまじめな日本人とケンカしたあと、出て行ったよ」
「こいつは第八小隊の連中から聞いたんだが、あいつら、軍が隠していたエイリアンとやりあったらしいぞ。今回少佐がクビをきられたのも、そのせいだって話だ」
 クルーの一人が、つまらなさそうにカードをたたきつけた。5枚のカードはバラバラで、役が成立していない。
「おいおい、あいつらがエイリアンと戦ったって? 馬鹿いうなよ、エイリアンはあいつらの方だ。いなくなったのだって、きっと地球人の軍隊がつとまらねえだけだよ」

 ガイルは歩きながら、遠めから軍人たちの墓標を見つめた。
 手には、親友の形見が握られている。
「ナッシュ、かたきは取るぞ。絶対にな……」
 ガイルの瞳は、うすく曇っていった。


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