ストリートファイター2N 波動伝
ROUND.6
「友への誓い! 復讐の男ガイル」 part6


「すばらし、かったよ……美しい友情物語だ」
 バルログが声をあげた。金網によりかかり、なんとか立ち上がっている。
「このおはなしに、すばらしいエンディングを用意したよ。自爆スイッチを押した。この建物は、あと五分で跡形もなく吹き飛ぶ。きみたちの運命は、最初から悲劇と決まっていたんだ。この五分で、せいぜいカーテンコールを演じてくれ。わたしはそれを見学させてもらおう」
「馬鹿な! お前もただではすまないぞ」
 俺が叫ぶが、バルログはけたけたと、気持ち悪く笑った。
「さっき言っただろう、リュウ……なにごとも、終わり際は際立って美しいと。きさまに汚されたわたしに残された道など、もうないのだ」
 やはり、狂っている! 自分の美しさのために、このまま自爆するつもりなのだ。
 俺は入り口の方向へと走った。ガイルはナッシュのなきがらをただ見ている。
「ガイルっ! まさか、このままあんたも死ぬなんて言わないよな」
「……当然だ」
 ガイルはソニックブームでよろよろのバルログを失神させると、ナッシュを担ぎあげた。

 大きな入り口のシャッターはぶ厚い鉄板製で、殴ったくらいではびくともしなかった。ガイルがマシンガンを持ってきて発砲するが、弾痕すらつかない。
「さっきのサイコ野郎をのすんじゃなかったぜ。このシャッターの開け方くらいは知っていたかもしれんな」
 だが、やつにとってそんなことは、もちろん美しくないだろう。何をしても言わなかったに違いない。ガイルは横に備え付けられたコンピュータ・パネルをパチパチやっているが、開く様子はない。ソニックブームを撃ってみても、へこみも付かない。強靭だ。どうする、バルログは爆発まで五分と言っていた。もうそんなに時間は残っていないはずだ。
「リュウ、ハドウケンは撃てるか。二つの技を『重ね』て威力を増幅すれば、きっとこのドアはぶち破れる。やるしかない!」
 もう、疲れているなんて言っていられない。それに、こういうピンチこそが波動≠フ真骨頂だ。生存本能が、体じゅうに波動≠フ力を送り込んで来てくれている。俺は深く深呼吸すると、波動≠取り出し、重ね合わせた。よし、なんとか撃てそうだ。今できる、最高の威力をぶつけてやる。
「ガイル、いいか」
「ちょっと待ってくれ」
 ガイルはソニックを撃つ格好をしながら、しゃがみこんだ。足元から腕にかけて、波動≠ェ流れているのが見える。それで理解した。彼は波動≠その場で練っている訳ではなく、何かしらの方法でそれを溜め込んでいるのだ。だからこそあんな無茶な連射ができたのだろう。
「よし、溜まった。いけるぞ!」
「合図に合わせていくぜ、1、2……」
 俺たちはタイミングを合わせて、技を撃った。双方のエネルギーがねじり合うことによって、空気にゆがみが起き、カタカタと鼓膜が振動した。
 爆音と共に、シャッターは大口を開けた。やった。成功したのだ。

 だが、すぐに絶望がやってきた。
 穴のむこうには、同じシャッターがひとつ、厳かにたたずんでいた。その無機質な輝きと美しさが、ことさら希望を奪った。
 二人とも言葉が出なかった。さっきのような技をもう一発撃てと言われているようなものなのだ。マラソンで、ラストスパートをした後のように、二人とも疲れきっている。そのままもう一度走れなどといわれたら、やはりそれは難しいことなのだ。
「リュウ。もう一回だ」
 それでも、俺たちはマラソンを続けるしかなかった。もうコースは、次々とがけ崩れを起こしていて、すぐそこまで迫ってきている。止まっている訳にはいかないのだ。
 二度目の合体波動技は、シャッターを破壊することができなかった。例によってガイルはパネルをいじるが、やはり開くことはない。マシンガンは弾切れをおこした。
「ちくしょう、手詰まりだ! せっかく、ここまで来たってのによ! あの野郎の言うとおり、俺たちはしょせん、悲劇の主人公だっていうのか!」
 ガイルは怒りにまかせて壁を殴った。
「あきらめちゃ駄目だ」
 俺はもう一度波動≠練った。さっきまでの威力などとうに失われている。
「リュウ、もうやめろ。さっきからサム≠使いすぎだ! このままだと、爆発より先に、お前が死んでしまう」
「ガイル。あんた、もしかしてこのままナッシュのところに行くのも悪くない、なんて思ってないか。さっき、意志を継げって言われただろ! 俺たちは悲劇の演者なんかじゃない。この物語は、まだ終わってないんだ! 結末は、俺たちが決める! もし筋書きがあるのだとしても、そんなもの、ねじ曲げてやればいい!」
 波動拳をぶつける。壁は残酷にそれをはじいた。息が荒い。目がかすんできた。だが、俺は大声を上げて波動≠続けて集め続ける。
「リュウ、一体何がお前をそうさせるんだ」
「人間だから、生きたいんだ。生きたいだけだ!」
 地面がゆらゆらと揺れ始めた。もしかしたら爆発の初期段階に入ったのかもしれない。もっとも、俺の命が燃え尽きはじめているだけという可能性はあるが。
 ガイルは十字を切った。やはり伝わらなかったのかと思ったが、ソニックブームを投げつけ始めた。彼も溜めていた波動≠ほとんど失っているようで、とてもまともなものとは言えなかった。
「わかった。最後までやろう! 俺も人間だからな、最後までみにくくあがいてやる」
 二人の必殺技は次々とシャッターにぶつかった。もちろん、それでていよく開くなんてことはなかった。
 ついに精魂尽き果て、俺たちは倒れこんだ。揺れはどんどん大きくなり、遠くから爆発音も聞こえるようになってきた。あれから何分経ったのだろう。どちらにせよ、爆発はもう目の前だ。ガイルは目を閉じている。俺も腕を伸ばすが、もう景色が見えない。
「サンクス、リュウ。お前は最高の……」
 ガイルがなにか言いかけたとき、腰に備え付けられたトランシーバーから音が漏れた。


 基地は大爆発を起こした。俺たちはそれを、ヘリコプターの中から見つめていた。
「最後は自分が追い払った部下と、上司に助けられるとは。大馬鹿野郎が他にもいて、本当に助かった。もっとも、こんなさえないフィナーレじゃ、観客は金を払わんだろうがな」
 ガイルが言った。
「いや、今年のアントワネット・ペリーはあんたたちだよ」
「なら、私は助演男優賞ってとこだな」
 操縦するナットと、隣にいるミラーが笑った。

 バルログが描いた悲劇のシナリオは、途中で破り捨てられた。
 あの揺れは、ガイルを心配して戻ってきたナットたちが、シャッターを開くために武器をぶっ放していた音だったらしい。よくよく考えてみれば、あんな少しずつ爆発していくなんてちょっとおかしい。あの時は必死で、それに気づかなかったのだ。トランシーバーの通信を受信したガイルは、少しして大声でどなった。
「目の前の壁をぶっ壊してくれ!」
 ナットたちはあの時、シャッターの目の前まで来ていたのだ。壁はロケットランチャーによって破壊され、俺たちは救われた。意識が薄れていてよく覚えてはいないのだが、あのシャッターの奥にも、あと三つ、同じものが用意されていたらしい。あの先には、確かに陰惨な運命がのしかかっていたのだ。だが、ガイルが培ってきた人望が、それを打ち砕いた。彼は俺のおかげだと言うが、どこをどう捉えて、そう感じるのか不思議なものだ。


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