ストリートファイター2N 波動伝
ROUND.6
「友への誓い! 復讐の男ガイル」 part3


 ガイルは真摯に俺の話を聞いた。ミラーもまさかと言う顔をしつつも、首を頷かせながら相槌を打った。
「なるほどな。リュウ君の話が本当だとしたら、これは大変なことだ。組織はそこまで大きいものだったとは知らなかった」
「もちろん、いま話した『組織』と、あんたたちの追う『組織』は別ものの可能性もあるんだが」
「いや、間違いないだろう。もちろんお前の話をまるっきり信じるわけじゃないが」
 ガイルが話をさえぎった。彼の持つ情報とも合致するところがあったようだ。これでようやく明確になった。ちなみに、ジミーのことは黙っておいた。俺が話したことが巡り巡って、彼の村に何かあったら申し訳ない。
 ミラーとガイルは目を合わせると、二人して頷いた。
「リュウ君。このことは外部には漏らさないでおいてくれ。それと、正式な客人として手続きを取らせてもらいたい。どうか私たちに協力して欲しい」


 俺は誘いを受け、客員として軍に迎えられた。もっとも正確には、ミラー隊の傭兵として雇われたことになっているそうだが。どうも俺の話を完全に信じたわけではなく、真意が定まるまで俺を留まらせ、それを確認したいということらしい。たしかに、俺が組織のスパイで、捜査をかく乱するために嘘の情報を流している可能性もないわけじゃない。どちらにせよ組織の情報を持っているということで軟禁された状況に近い。彼らの判断は正しいと言えるだろうが、俺は本当のことを言っただけなのだ。この扱いは、少しばかり不満だ。けっきょくガイルとの交換条件も成立せず、師匠の情報を得ることができなかった。だが、逆に言えばこれを立証さえすれば、彼から情報を得ることができるのだ。
 ガイルたちは今、組織の尻尾をある程度掴んだ状態にあるらしい。ナッシュが残した資料を基にして、ついに組織の施設を発見できそうだというのだ。完全に場所を割り出すのも、そうかからないという。
 最初こそちょっとの辛抱だと考えていた米軍暮らしは、二週間もすると、自分にとって楽しいものに変わっていた。トレーニングの設備は整っているし、相手がいるので張り合いも出る。ケンと修行していた頃を思い出しながら、俺は鍛錬することを楽しんだ。

 ある日、銃撃のトレーニング場をのぞいて見ると、ガイルの姿があった。拳銃は持っていない。
「なんだ、あんたもナッシュのことを探してばかりってわけじゃないんだな」
 声を掛けると、意外にも彼は口元を緩ませた。
「いざ作戦になった時、練習をさぼっていたせいで筋力が維持できませんでした、サム≠ェ練られませんでした、なんてことにはなりたくないからな」
 彼らは波動≠フことをサム≠ニ呼ぶ。ミラーの話だとサムシング・グレイト≠フ略らしい。
 ガイルはそういうと波動≠練り始めた。最近わかったのだが、はっきり言って彼の波動≠フ練り方はお粗末で、ほとんど素人と言っていいほどのものだった。だが、以前戦った時のように、俺より早いスピードで技を打つことができるのである。
「ソニックッ!」
 ガイルの必殺技「ソニックブーム」が放たれた。一瞬で的にたどりつくと、強化プラスチック製の的は、まるで発砲スチロールみたいに派手に吹っ飛んだ。そのまま次の的が出てくる前に、彼はもう一度技を撃つと、今度は出てきた瞬間に命中させた。
 俺はガイルの隣に立ち、波動≠練りだした。彼は受けてたとうという感じで、また波動≠腕に集めはじめると、俺たちの的当て対決がスタートした。

 最初こそいいペースで的を吹っ飛ばしていったが、数分もするとに表示されたスコアはかけ離れていた。やはり、今回も彼に勝てなかった。
「くそっ」
 ガイルはこちらを見てにやりとした。
「進歩しないやつだ。そんなんじゃ、ここにいるだけ無駄ってもんだ」
 息があがって言い返しもできず、悔しかった。ここまで波動°Zをすばやく出せる奴がいるなんて。だが不思議だった。どう考えても練成そのもののスピードは俺の方が速いし、ガイルのやり方は無駄ばかりだ。この差はどこで出ているのだろう。このせいで用意された部屋にいるときは、波動≠フ研究に没頭することになった。
 そんなことを続けているうちに、俺は軍人仲間たちからガイルのお気に入りと呼ばれるようになった。どうしてだと聞くと、彼らはたいていこう言った。
「リュウ、ガイルがお前のことを本当に嫌いだったら、彼はとっくにお前が欲しがっている情報を与えて、さっさとここから追い出してるさ。もうあの人は、お前のことを疑っちゃいない。むしろ気に入ってるはずさ」


 軍人生活にすっかり慣れて来たある夜、ミラーから連絡が入った。
「リュウ君、君の役目は終わった。情報提供、感謝する」
 真意ははっきりしたから、明日荷物をまとめろというのだ。俺は困惑した。どういうことだ。話が違う。ガイルの部屋に行ってみると、彼は怒りに震えていた。
「くそっ、お前もか! 今から一時間ほど前、組織の基地がある場所がやっと特定できたんだが、その途端、おれも捜査班から解任されたんだ。それどころじゃない、ミラーは今日で捜査そのものを打ち切ると言っていやがる。理由はわかりきっていている。上の連中が、裏で組織と繋がっていたんだ!」
「すまない」ミラーが入ってきた。「大きな声では言えんのだが、いろいろあってな。粘ったんだが、これ以上の捜査はできないことになった。私も無念だ」
 ガイルはミラーに食ってかかった。
「見損なったぜ、ミラー大佐」
「落ち着け、ガイル。これでナッシュの捜査ができなくなるわけじゃないんだ。それに、君もわかっているだろう。軍の命令は軍人にとって絶対なのだ。逆らったら君の立場がどうなるかわかっているのか」
「ふざけるな、ナッシュは組織に関わっていなくなったんだぞ。もうこんな軍なんて、くそくらえだ!」
 ガイルはミラーの静止も聞かずに押しのけると、ドアを開けて走っていった。きっと組織の基地に向かったのだ。彼は悲しそうに目を伏せた。どうすべきか迷ったが、俺は追うことに決めた。
「やけになりおって。お前ひとりでどうするつもりなのだ……」
 ミラーのもの悲しい独り言が聞こえた。いや、ガイルはひとりなんかじゃない。俺がいる。


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