ストリートファイター2N 波動伝
ROUND.11
「ベガの野望! サイコ・パワーの恐怖」 part1


「リュウ! どうしたんだ、ボロボロじゃないか」
 翌日の朝、ドアを開けたケンが開口一番騒ぎだした。
「まさか、ベガたちに闇夜を襲われたのか」
「違うよ。サガットと戦ったんだ」
 リュウは昨晩のことを話した。ケンは明らかにいらついていた。きっと呼ばれなかったことが納得いかないのだろう。
「ま、無事ならよかったよ。あいつは、オレが倒してやりたかったけれどね」
 ケンは、四年前のことをまだ根に持っていたのだ。サガットは彼に決定的な挫折を与えた人物なのだから、その気持ちはごく自然ではあるのだが。
 ケンはリュウに、本調子で今日の大会を戦えるかどうか、いくつかの質問をしたあと、二人はホテルを後にした。
「俺は大丈夫だ。そんなやわじゃないってのは、ケンだってよくわかってるだろう」

 二人が会場入りすると、中では既に試合が始まっていた。少し遅刻してしまったらしい。二人は慌ててトーナメント表を見に行った。
 都合いいことに、彼らの試合はもっと後の時間だった。さらに、ブロックまでもが離れていた。
「リュウとやれるのは決勝か」
「どうする、今回も俺はやれるだけやるつもりだが」
 ケンは顔をしかめた。
「意地悪な質問だな。まあ、もとよりオレの目標は決まっているけれどね。打倒リュウ。そしてベガだ」
 二人は笑ったが、リュウがトーナメント表を改めて見て、凍り付いた。ケンも彼の様子に気づいて同じ場所を見ると、声をあげた。
 ガイルが、既に負けているのだ。
 
 彼のことは簡単に見つけることができた。
「ガイル、まさかあんたが負けるなんて」
 ガイルは笑顔でこちらを見た。
「リュウか。いや、この大会はレベルが高いぞ。オレなんてあっと言う間にやられちまった」
 大会の様子を見る限り、はっきり言ってそんなことは全くなかった。あの熟練した戦法を持つガイルが、そんなに簡単に負けるなんて。
「まあ、オレはもうあきらめることにして、観戦に徹するよ。じゃあな、がんばれよ」
 ガイルはそそくさと観客席へと歩いていった。
「どうしちまったんだ、あいつ。昨日とまるっきり様子が違うぞ」
 少し気になったが、二人の試合も近づいていて、それどころではなかった。

「あんたの運命っての、本当に不思議だよな」
 壇上にあがったリュウは、対戦相手に声をかけた。
「なにが不思議なのだ。言っておくが私が決めているわけではないのだぞ。あらかじめ、運命とは決まっている。私はその流れに沿っているにすぎん」
 ダルシムはターバンを取りながら言った。
なにもかも相変わらずだった。

 鐘が鳴らされ、二人の戦いが始まった。
 お互い種が割れている相手同士ということで、リュウもダルシムも技の出し惜しみを全くしなかった。
 ダルシムがヨガファイヤーを飛ばすと、リュウは瞬時に波動≠三回重ね、炎の波動拳でそれを相殺してみせた。ダルシムはこれを見てうれしそうにした。
「理解しているな。やはりお前は、見込み通りの男だ」
 リュウは答えなかった。ダルシムが腕を伸ばし、リュウを掴もうとする。リュウは片手で波動≠展開させ、体を回転させるとそれを弾き飛ばした。さらに跳躍し、その腕を掴むと、それを猛烈に引っ張りはじめた。
 ダルシムの腕を伸ばす技術には限界があった。そのため、彼はリュウの元へと引き寄せられ、まんまと昇竜拳を食らった。
 ダルシムはこれを受けて、棄権を宣言した。

「なんだよ、これからってとこじゃないか」
 リュウは少し不満そうだったが、ダルシムは上機嫌だった。
「今の攻撃でだいたいのことは理解できた。私はこれで満足だ。お前は、真空≠ノ至ったのだな」
 リュウは静かに頷いた。
「私の役目はこれで終わった。すばらしい。全くすばらしい男だ、お前は」
 ダルシムはリュウの首に腕をかけた。
「なんだよ、変な奴だ。……ダルシム、あんたに教わった知識は本当に役に立ったよ。全部あんたのおかげなんだ。こうして礼が言える機会ができて、よかった」
 二人が握手すると、万雷の拍手が送られた。ベガが、二階のバルコニーからその様子を見ていた。


 リュウとケンの二人は順当に勝ちあがっていった。中には大降りの大剣や、バルログのような鉤爪を使う相手もいたが、二人はそれをどうやって打ち破ろうか楽しんで戦っているようにも見えた。
 半日が過ぎ、ベスト四までが決定した。
 一人はリュウ、ここまでほとんど圧倒的な力で勝ち抜いてきていた。だが、彼と戦った相手は、全員が奇妙な満足感を感じていた。
 もう一人はケン。彼もリュウと同じだったが、派手な戦い方をしていたので、彼が壇上に上がるとひときわ大きな歓声が起こった。
 三人目がオーグと名乗る男で、短剣での戦いを得意としていた。
 そして四人目が、かの国からやってきたレスラーのザンギエフだった。彼は既に何度もやられかけていたが、ここまで根気でやってきた。
「おっさん、すげぇガッツだよなあ。さっきの戦いは、感動さえ覚えた」
 ケンとザンギエフは握手した。案の定、ケンの顔はいっしゅんにして紅潮した。リュウはその姿を見て思わず笑ってしまう。彼も以前やられた、とんでもない握力だ。
「ありがとうよ、ケン。さあ、次はいよいよリュウ、お前との勝負だ」
「ああ、本当に夢みたいだ、あんたと再戦できるなんて」
 リュウはこれまでないほどにわくわくしていた。ザンギエフは、世界の旅で戦った相手の中でも有数の強さだった。いつか、決着をと思っていた。
「リュウ、あの時と逆だな。ザンギエフは強敵だろうが、負けるなよ」
「お前こそ。四年前の約束を果たすときだ」
 二人は腕を組み合わせた。

 ザンギエフとリュウがステージに立つと、ギャラリーたちは大いに沸いた。もっとも、国民たちは皆洗脳されてしまっているので、訳も分からず騒いでいるだけかもしれない。それ以上に声を出しているのは大会出場者たちだった。いくつかの例を出すとこんな具合だ。
「リュウ、もっと凄い技を見せてくれ」
「ザンギエフ、あんたなら優勝だ」
 彼らはとっくに負けてしまっているのだが、どういうことか戦っていたとき以上に興奮している者すらいるように見える。きっと、それだけ彼らの心を動かす戦いを、この二人がしてきたことの現れなのだろう。
「リュウ、これからやるファイトは、生涯最高のものになるとおれは確信している」
 ザンギエフは、例の赤パンツ一丁の姿で現れた。筋肉があの頃より洗練されているように見える。
「俺もだよ。始めから全力で行く」
 二人がにらみ合うと、鐘が鳴らされた。


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