ストリートファイター2N 波動伝
ROUND.10
「ワールド・ウォリア! 逆襲の帝王サガット」 part2


 リュウたちはホテルへと向かうことにした。とくにケンは時差ぼけであまり体調が思わしくなく、すぐにでも睡眠を取りたいと言い出した。ザンギエフとダルシムは別のホテルだったので、途中で別れた。
 ガイルは開会式が終わってすぐに姿を消した。
「ガイルのやつ、ベガの顔を見てから様子がおかしかったな」
「ああ。彼は間接的ではあるが、親友を殺されているからな。しょうがないだろう」
「おいおい、まさか殺意の波動≠ェ発動したりしないだろうな」
 ケンはリュウが発動させた時のことを思い出してぞっとした。
「ガイルにも殺意の波動≠フことは話してある。本人も注意しているはずだ。妙なことを考えなければいいが」
 
 リュウの考え通り、ガイルはベガを暗殺するつもりでいた。リュウたちはどうして、あの男を目の前にして悠々としていられるのだろう。どうして殺してやりたいと思わないのだろう! ガイルの頭にはそんなことばかり浮かんでいた。
 ガイルは一晩かけて、徹底的にベガのことをマークしてやろうと決心して、憎らしい敵が入っていった部屋を廊下の物陰からのぞいていた。
「ガイル選手、ここに滞在することは許されておりません。お引き取りを」
 軍服姿の男たちが三人ほどやってきて言った。彼らはライフルを突きつけている。
「たったそれだけで、オレを止めるつもりか。なめられたもんだ」
 ガイルはふっと笑ったが、男たちは全くひるまない。
「暗殺をお考えのようですが、ベガ様は本日、あの部屋を出ることはございません。セキュリティも万全です。この先に行って、ベガ様と戦おうとするのも結構ですが、開会式であのお方がおっしゃったように、命をむだにするだけです」
「だったら大会に勝って、自殺してくださいと頼めとでも言うのか。ばかばかしい」
 男たちはライフルのトリガーに指をかけた。
「ええ、本当にベガ様を倒したいのならばそうしてください」
 その一言で、ガイルと男たちの戦闘が始まった。ガイルは手慣れた手つきでライフルを奪い、バックナックルをたたき込んだ。残りの二人が発砲しようとしたが、ガイルはあらかじめ溜めておいたサム≠ナソニックブームを打ち、一瞬にして三人を気絶させた。
「おまえは……」
 ガイルは驚愕した。いつの間にかベガに後ろを取られていたのだ。
「リチャード……いや、ベガ! オレの顔を忘れたとは言わせないぜ」
「ガイル少佐か。久しぶりだな。そうだな、あれは私が米軍に潜入していた頃だから、もう二年半以上前になるか」
 ガイルは憎しみを込めてソニックブームを放った。だが、壁を破壊しただけだった。
「この建造物は五百年以上前に建てられた貴重なものだ。そんな乱暴をしてもらっては困るな」
「リチャード中将。おかしいと思ったよ。ゴウケンじいさんが現れた途端、あんたは突然転属された。まるでそれが計算だったようにな」
「ゴウケンは昔なじみで、私の顔を知っていたからな。それにしても、米軍をやめてまで私に楯突くとは愚かなやつだ。そういえば、ナッシュ君は元気にしているか?」
 ベガはわざと、ガイルの神経を逆撫でするようなことを言った。ガイルはこの挑発に乗ってしまった。
「オレは貴様を、絶対に許さない!」
 ガイルは猛然と立ち向かったが、何度も叩き賦せられ、ついには羽交い締めにされてしまった。
「強いパワーを持っているとはいえ、お前を招待するべきではなかったな。これでリュウまでもが、つまらん感情をむき出しにして、私を殺そうと向かってきたら、どう責任を取ってくれるのだ」
「やはり、この大会の一番の狙いはリュウか! あいつは何か奥義のようなものを得たふうだったからな。大方その力を利用しようって腹だろう」
 そこまで言うとベガの様子が変わった。
「ガイル、お前は邪魔だ」
「ふっ、殺しな。さもないと、オレはお前が死ぬまで、命を狙い続けるだろう」
 ガイルは観念したように言った。ベガはサイコ・パワー≠体じゅうから呼びよせた。

 リュウはホテルのドアを閉じた。ケンとは隣同士の部屋だから、なにかあってもそう心配はない。
 いよいよ、明日から大会が始まる。リュウにとっては春麗を救い出すための大会であり、シャドルーとの決着をつけるための大会ではあるのだが、なんだか妙に心が踊ってしまうのだった。世界中の強い奴がたくさん集まって、彼らと一堂に会して戦えるのだ。もちろん、春麗のことも心配で、アメリカの一件からはよく眠れた日がないくらいだし、とうとう国ひとつを手に入れるまで大きくなってしまったベガたちシャドルーを、どうやって倒せばいいものか悩んでいるのも事実だが、純粋にストリートファイターとしての血が騒ぐのだ。
 とにかく休もうと、ベッドに横たわろうとした時、小さな厚紙が乗っていることに気がついた。その紙には見覚えがあった。
「これは!」
 それは、数年前のムエタイの大会で手に入れたのと同じ賞状だった。だが、日にちが違う。俺やケンが挑む数年前のものだ。
 賞状には大きな赤い文字でこう書いてあった。
「ワット・ロカヤスターにて待つ サガット」

 リュウはサガットとの出会いを思い出していた。この物語の冒頭でも語られた、ゴウケンがいなくなる直前の、このタイへの旅でのことだった。もう四年近く前のことである。
 リュウとケンは、そこでムエタイの大会に出場した。タイの中でも一番権威のある大会だった。
「いよいよ、修行の成果が試せるんだな」
 ケンがうきうきしながら言った。
「ああ、やれるところまでやってみよう」
「なに言ってんだよ、優勝だよ優勝。もちろんオレが勝者になってみせる。じゃあこうしよう。リュウは、やれるところまでやってみる。オレは優勝。これでいいだろ」
 リュウは同意した。このころの彼は、まだ自分の強さに気づいていなかった。
「優勝だと」
 その時、横からケンに突っかかる声が飛んできた。
「我が国のムエタイをなめるなよ、外国人。きさまらなんぞ、一撃で倒してやる」
 ケンの肩をつかんだのは、タイのファイターである。独特の衣装をまとっている。
「なんだと。今ここでやってもいいんだぜ」
「やめておけ。大会が始まる前に帰国するはめになるぞ」
「てめえ!」
 二人の小競り合いはつかみ合いに発展した。リュウはケンを制止しようとしたが、そんなことを聞く彼ではない。
「なにをしている」
 つかみ合いが殴り合いに変わる寸前、ある大男がやってきて、二人を仲裁した。
「アドン、きさま。神聖なるこの会場で小競り合いを起こすとは何事か。一番弟子になったことを鼻にかけて、いい気になっているんじゃないぞ」
 するとアドンは、すぐに態度を改めて頭を下げた。
「申し訳ありません、帝王。私は確かに、いい気になっておりました。ですが、このガキが、私たちを愚弄するようなことを言うもんですから」
 すると、「帝王」の視線は日本からやってきたふたりに向けられた。リュウは恐ろしくてその場に固まった。
「私の弟子が申し訳ないことをした。だが、君らが私たちを愚弄したというのなら、話は別だが」
 ケンも臆したのか、乾いた笑いと共に弁解した。
「ぐ、愚弄なんかじゃないですよ。なあ、リュウ」
 リュウも思わず同意する。
「まあ、いいだろう。力があるのなら、大会で示してくれ。我が国にたった二人で挑む勇気は買うぞ、少年たちよ。せいぜい頑張ることだ」
 「帝王」はアドンと共に去っていった。
「すごい威圧感だったな。あいつが噂の『帝王』サガットか。ちくしょう、ほんのちょっぴりだが、ビビっちまったぜ」
 リュウも同じ気持ちだった。二人にはサガットの波動≠ェ見えていた。恐ろしく透き通っていて、異様だった。
 かくして大会は始まった。一回戦、ケンは先ほどの一番弟子・アドンを簡単に倒して、いきなり力を示した。リュウもリュウで、慣れない場所での実戦に苦戦しつつも勝ちあがっていった。
 準決勝にもなると、突然現れた二人の日本人は会場じゅうの脚光を浴びた。
 リュウの相手は三番弟子の男、ケンの相手は、あのサガットだった。
「お前はたぶん、楽勝だな。問題はオレだが、きっと勝ってみせる。二人で決勝をやろう。約束だ」
 二人は腕を組んだ。
 リュウは、苦戦を強いられたが三番弟子の男をなんとか倒した。すぐにケンの方へと向かってみると、すでに彼は担架で運び出され、ベッドで眠っていた。
「やはり、帝王は最強だよ。あの日本から来た金髪もよくやったが、帝王はおそらく五分の力も出さずにやつを倒してしまった」
 周りの声が耳に入った。
 リュウは拳を握りしめて、最後の舞台へと立った。


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