「な……」 隼人は言葉を失った。熊? 似ているが、違う。何よりも熊よりも大きく、腕が鳥の翼のようになっている。化け物は敵意をむき出しにして、真っ赤に輝く瞳をこちらに向けている。 「オウルベア……どうしてこんなところに!?」 マヤが驚いた様子で言った。 「な、なんなんだよ、こいつ。ちょっとふつうじゃないぞ!」 「確かに変ね。こんなところにモンスターが出るなんて」 「モンスター? な、なんだよモンスターって」 「気をつけて、来るわよ!」 オウルベアは大きなうなり声をあげて、こちらに突進してくる。 隼人は恐怖とパニックで身動きすら取れない。 眼前まで迫ったところで、オウルベアの顔面に火花が走った。 マヤがまた電撃を放ったのだ。 「なにやってるのよ、逃げるわよ! 二人で勝てる相手じゃないっ!」 オウルベアがひるんでいるすきに、マヤは隼人の手を取り、駆けだした。 「なあ、おい、説明してくれ! 一体ここはどこなんだ! 一体なにが起こってるんだ!?」 走りながら隼人が叫ぶ。すぐ横を走るマヤは不思議そうに彼を見る。 「あんたこそなんなの? さっきからちょっとおかしいわよ」 「おかしくもなるよ! 真矢が金髪で、電気を撃って、剣で襲いかかってきて、果てにはモンスターだって!? どうしちまったんだよ俺の頭!?」 マヤの頭にハテナマークが浮かぶ。しかし彼女はすぐにかぶりをふった。 「落ち着きなさい。とにかく、こうなったからには協力しましょう。剣もなくなっちゃったし、逃げることしかできないけど……オウルベアの足は遅いから、なんとかなるはずよ」 「ほんとかよ?」 「大丈夫よ」 その時、すぐ先の草むらが揺れた。 オウルベアだ。 マヤの表情が変わった。 「……囲まれたりしなきゃ、の話だけど。右に曲がって!」 二人はオウルベアを左手に見ながら右に曲がる。 がさ。また草むらがゆれる。嫌な予感がした。 またしてもオウルベアだ。 「嘘でしょ!?」 マヤが足を止めて叫ぶ。 二人はオウルベア三匹に囲まれてしまった。 右、左、後ろ。 三匹の獣が、うなりながらこちらを見ている。 「ど、どうするんだよ」 隼人が言うが、返答は返ってこない。マヤは少しふるえているようだった。 「オウルベアが、三体……これじゃ、勝ち目が……」 「さっきみたいな電撃で、なんとかならないのか?」 「見たばっかりでしょ。私の“魔力”じゃ通用しない。終わりだわ……」 先刻まで見せていた気の強さはすっかりとしぼみ、マヤは震えた声で言った。 オウルベア三体は、それを楽しむかのように、ぐるぐると周囲をまわって二人を囲む。 マヤはおびえて言葉も出ない。 だが、隼人は足下に落ちていた木の棒を拾った。 「くそっ、こんなわけのわからないまま終わりだなんてたまるかよ……!」 「あんた、この状況わかってるの……? 無茶よ……!」 「だからって、何もせずにやられるのを待つのか。俺はそんなの、ゴメンだよ」 そうは言っているが、隼人の足はがくがくとふるえている。マヤはそれを見て、うなづいた。 「そうね……。やってみましょう。私が電撃を撃つから、あんたは合図に合わせて突進して。うまくすれば逃げるくらいはできるかもしれないわ」 「そうこなくちゃ」 オウルベアが少しずつ輪をせばめてくる。マヤは腕をクロスすると、その手に青白い“魔力”があふれた。 「左目に傷がある奴をねらうわ。三数えでいくわよ!」 隼人がうなづく。 「いち、にの……」 マヤは腕をオウルベアに向ける。隼人は足に力を込めた。 「さん!」 マヤの腕から火花が散り、どんという音とともに電撃が走る。隼人は大声をあげて目に傷のあるオウルベアへ向かっていった。 だが、現実は甘くなかった。 マヤの動きを見ていたオウルベアは、立ち上がって電撃をかわした。 マヤは目を見開いた。 「しまった!」 隼人はストップしようとしたが、オウルベアが立ち上がったままその腕をあげた。 攻撃が隼人に迫る。 「う、うわああああっ!!」 「危ないっ!」 そのとき、光があふれた。 ◆ マヤはおそるおそる目を開く。 オウルベアが、立っている。さっきの男は……。 そのすぐ前にいた。位置は、直前までと何も変わっていない。 だが、男が何かを握っている。さっきまでの木の棒ではない。 マヤはそれを見て、はっとした。 「あれは……!」 隼人が目を開く。自分の目の前にいた化け物が、胴からまっぷたつになってごろりと倒れた。 その右手には、うっすらと青く輝く剣が握られていた。 「け、剣……?」 残りニ体のオウルベアがそれを見て声をあげる。仲間を殺された怒りか、それとも隼人の持つ剣と、同色に輝く眼に反応したのか。オウルベアたちは隼人に向かって突進した。 隼人には、なぜかそれがスローモーションで見えた。 なんとなくわかる。この剣なら。 隼人は輝く剣を正眼に構え、オウルベアの突進に合わせてそれを振るった。 しゅん、という音とともにオウルベアの体がまっぷたつに斬れる。 もう一体が同じようにして迫ってきたが、隼人が頭を突くと、顔が吹っ飛んで絶命した。 隼人はモンスターたちが消滅していくのを見届けると、剣をじっくりと見た。 特にそれらしい装飾はない。見た目はさっきマヤが振るっていた剣によく似た、西洋のつるぎだ。 しかしその刀身を青白い輝きが、オーラのように包んでいる。刀身そのものも、太陽光を受けて青く反射していた。きのせいか、ところどころが少し傷んでいるように見える。 隼人はマヤを見た。 彼女は口をあんぐりとあけて呆然としていた。隼人はちょっぴり笑ってしまった。 「はは。か、勝てたな」 マヤはそれに反応せず、信じられない、と言ったふうにつぶやいた。 「あ……『蒼きつるぎ』……!」 「へ?」 「ど、どうしてあなたがそれを……!? あなたは一体、何者なの……?」 運命が、動きだした。 |