IMMORTAL MIND
イモータル・マインド

Part 1 [Blue Sword]
2.「金髪少女と蒼きつるぎ」その2

「な……」

 隼人は言葉を失った。熊? 似ているが、違う。何よりも熊よりも大きく、腕が鳥の翼のようになっている。化け物は敵意をむき出しにして、真っ赤に輝く瞳をこちらに向けている。

「オウルベア……どうしてこんなところに!?」

 マヤが驚いた様子で言った。

「な、なんなんだよ、こいつ。ちょっとふつうじゃないぞ!」
「確かに変ね。こんなところにモンスターが出るなんて」
「モンスター? な、なんだよモンスターって」
「気をつけて、来るわよ!」

 オウルベアは大きなうなり声をあげて、こちらに突進してくる。
 隼人は恐怖とパニックで身動きすら取れない。
 眼前まで迫ったところで、オウルベアの顔面に火花が走った。
 マヤがまた電撃を放ったのだ。

「なにやってるのよ、逃げるわよ! 二人で勝てる相手じゃないっ!」

 オウルベアがひるんでいるすきに、マヤは隼人の手を取り、駆けだした。


「なあ、おい、説明してくれ! 一体ここはどこなんだ! 一体なにが起こってるんだ!?」

 走りながら隼人が叫ぶ。すぐ横を走るマヤは不思議そうに彼を見る。

「あんたこそなんなの? さっきからちょっとおかしいわよ」
「おかしくもなるよ! 真矢が金髪で、電気を撃って、剣で襲いかかってきて、果てにはモンスターだって!? どうしちまったんだよ俺の頭!?」

 マヤの頭にハテナマークが浮かぶ。しかし彼女はすぐにかぶりをふった。

「落ち着きなさい。とにかく、こうなったからには協力しましょう。剣もなくなっちゃったし、逃げることしかできないけど……オウルベアの足は遅いから、なんとかなるはずよ」
「ほんとかよ?」
「大丈夫よ」

 その時、すぐ先の草むらが揺れた。
 オウルベアだ。
 マヤの表情が変わった。

「……囲まれたりしなきゃ、の話だけど。右に曲がって!」

 二人はオウルベアを左手に見ながら右に曲がる。
 がさ。また草むらがゆれる。嫌な予感がした。
 またしてもオウルベアだ。

「嘘でしょ!?」

 マヤが足を止めて叫ぶ。
 二人はオウルベア三匹に囲まれてしまった。

 右、左、後ろ。
 三匹の獣が、うなりながらこちらを見ている。

「ど、どうするんだよ」

 隼人が言うが、返答は返ってこない。マヤは少しふるえているようだった。

「オウルベアが、三体……これじゃ、勝ち目が……」
「さっきみたいな電撃で、なんとかならないのか?」
「見たばっかりでしょ。私の“魔力”じゃ通用しない。終わりだわ……」

 先刻まで見せていた気の強さはすっかりとしぼみ、マヤは震えた声で言った。
 オウルベア三体は、それを楽しむかのように、ぐるぐると周囲をまわって二人を囲む。
 マヤはおびえて言葉も出ない。
 だが、隼人は足下に落ちていた木の棒を拾った。

「くそっ、こんなわけのわからないまま終わりだなんてたまるかよ……!」
「あんた、この状況わかってるの……? 無茶よ……!」
「だからって、何もせずにやられるのを待つのか。俺はそんなの、ゴメンだよ」

 そうは言っているが、隼人の足はがくがくとふるえている。マヤはそれを見て、うなづいた。

「そうね……。やってみましょう。私が電撃を撃つから、あんたは合図に合わせて突進して。うまくすれば逃げるくらいはできるかもしれないわ」
「そうこなくちゃ」

 オウルベアが少しずつ輪をせばめてくる。マヤは腕をクロスすると、その手に青白い“魔力”があふれた。

「左目に傷がある奴をねらうわ。三数えでいくわよ!」

 隼人がうなづく。

「いち、にの……」

 マヤは腕をオウルベアに向ける。隼人は足に力を込めた。

「さん!」

 マヤの腕から火花が散り、どんという音とともに電撃が走る。隼人は大声をあげて目に傷のあるオウルベアへ向かっていった。

 だが、現実は甘くなかった。
 マヤの動きを見ていたオウルベアは、立ち上がって電撃をかわした。
 マヤは目を見開いた。

「しまった!」

 隼人はストップしようとしたが、オウルベアが立ち上がったままその腕をあげた。
 攻撃が隼人に迫る。

「う、うわああああっ!!」
「危ないっ!」

 そのとき、光があふれた。



 マヤはおそるおそる目を開く。

 オウルベアが、立っている。さっきの男は……。
 そのすぐ前にいた。位置は、直前までと何も変わっていない。
 だが、男が何かを握っている。さっきまでの木の棒ではない。
 マヤはそれを見て、はっとした。

「あれは……!」

 隼人が目を開く。自分の目の前にいた化け物が、胴からまっぷたつになってごろりと倒れた。
 その右手には、うっすらと青く輝く剣が握られていた。

「け、剣……?」

 残りニ体のオウルベアがそれを見て声をあげる。仲間を殺された怒りか、それとも隼人の持つ剣と、同色に輝く眼に反応したのか。オウルベアたちは隼人に向かって突進した。

 隼人には、なぜかそれがスローモーションで見えた。

 なんとなくわかる。この剣なら。

 隼人は輝く剣を正眼に構え、オウルベアの突進に合わせてそれを振るった。
 しゅん、という音とともにオウルベアの体がまっぷたつに斬れる。
 もう一体が同じようにして迫ってきたが、隼人が頭を突くと、顔が吹っ飛んで絶命した。

 隼人はモンスターたちが消滅していくのを見届けると、剣をじっくりと見た。
 特にそれらしい装飾はない。見た目はさっきマヤが振るっていた剣によく似た、西洋のつるぎだ。
 しかしその刀身を青白い輝きが、オーラのように包んでいる。刀身そのものも、太陽光を受けて青く反射していた。きのせいか、ところどころが少し傷んでいるように見える。

 隼人はマヤを見た。
 彼女は口をあんぐりとあけて呆然としていた。隼人はちょっぴり笑ってしまった。

「はは。か、勝てたな」

 マヤはそれに反応せず、信じられない、と言ったふうにつぶやいた。

「あ……『蒼きつるぎ』……!」
「へ?」
「ど、どうしてあなたがそれを……!? あなたは一体、何者なの……?」

 運命が、動きだした。

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