「ミランダッ!!」 ロバートは叫ぶと同時に、行動を開始していた。 だが、あまりにも絶望的な距離と言えた。 グランがミランダに向け、剣を構えるのがスローモーションのようにして見える。 一瞬だ。あの剣は一瞬で彼女に届く。 何か方法はないのか。 何でもいい。自分がどうなってもいい。 今この時、この瞬間のために自分は生きてきたのだ。 死ぬことに対して悔しいと思った時、「蒼きつるぎ」は自分に力を与えてくれた。 でも、そうじゃない。 俺はこの時にどうにかするために、あの時悔しさを覚えたのだ。 いま動くために、生き残ったのだ。 「矢」の能力を使おうか。いや、無理だ。確かにこの力は優秀だが、この一瞬で届くわけではない。 それは、彼にとってこの上ない絶望を意味した。 ダメだ。このままじゃ、守れない。 よりにもよって自分の目の前で、ミランダの死を目撃することになる。 それだけは、あってはならない! 彼女は、生きなければならない。 彼女は、まだまだ進んでいかなければならない。 彼女は、死んではならない! 「蒼きつるぎ」の「ブレイク」は、強大な「力」ではないのか。 彼は心の中で叫んだ。 どうにか、してくれ! 俺をあそこに、連れて行ってくれ! この絶望的な状況を、ひっくり返してくれ! その時、蒼い輝きが視界に現れた。 「ブレイク」したことがきっかけなのか。 それとも、単なる偶然なのか。 または、勇者ハヤトが気づかぬうちに起こした奇跡なのか。 気づいた時には一瞬にして、ミランダの目の前にたどり着いていた。 驚きと恐怖で顔をひきつらせる彼女の顔が、見えた。 長い銀髪がすこし乱れている。 外にはねたくせっ毛は元々、彼女にとってコンプレックスだった。ロバートはそれをよく知っている。 「でもね」 故郷のファロウ村を旅立った頃、ミランダがふと言った。 「アタシはこのくせっ毛を、逆に長所にしたいと思うようになったんだ。確かに昔は大嫌いだった。きれいなストレートの髪の子を見ると、思わずケンカふっかけちまってた時期もあったよな。あんたが止めてくれてなきゃ、どうなっていたことやら。でもさ、それは違うんじゃないかって、最近思うようになったのさ。だってこの髪も、このアタシ、ミランダ・ルージュの一部なんだから。いずれこのくせっ毛が最高って、男どもに言わせて見せるよ」 ロバートは冗談半分で「そうだな」とだけ言った。 彼自身は、ミランダのくせ毛は悪くないと、そう思っていた。 そして彼女は事実、それを異国で実現した。 だからお前は、最高の姉御なんだ。 そんなお前だから、俺は守るんだ。 だから……。 「幸せに、な」 ロバート・ストーンはほほえんだまま、凶刃を浴びた。 |
NEXT STAGE......Part3 「Hero & Devil」
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