「こんな所にいたのか、マヤ。探したぞ」 夕暮れ時の草原で、青年は少女に声をかけた。 マヤは青色の目元をはらしながら草原に腰掛け、ベルスタの城壁と、さらに先に見える茜色の空を見つめていた。 「やだ」 マヤは彼のことを見向きもせず、一言だけ言った。 青年は、眉を下げて彼女の隣に座る。その目は優しかった。 「マヤは、今年いくつになった」 「九歳」 「だったら、わかるはずだ。兄さんは、行かなきゃならないんだ」 「やだ!」 マヤは、立ち上がって兄を見る。 「どうして兄さんが行かなきゃならないの!? 別の人だっていいじゃない! どうして、どうしてグラン兄さんなの……」 グランは、泣きじゃくる妹の頭をなでた。 「ごめんな……。でも、『蒼きつるぎ』の勇者と一緒に行けば、魔王を倒すことができるかもしれない。そうすれば父さんと母さんの敵も取れるし、魔族がいなくなって、みんなで幸せに暮らしていける。マヤだって、あの泉で水浴びしたいんだろう?」 「でも……兄さんがいなくなっちゃったら、マヤはどうすればいいの!? マヤも、マヤもつれてってよ……」 「マヤ、わかってくれ。危険な旅なんだ。お前を連れて行く訳には行かない」 「兄さんが死んじゃったら、マヤはどうすればいいの」 「大丈夫。兄さんは死なないよ」 グランは笑顔を見せた。 金色の髪が風に乗って、ゆらゆらと揺れた。 「きっと世界を平和にして、ベルスタに帰ってくるよ」 「本当?」 マヤは不安げに兄を見つめた。 グランは腕をクロスすると、その場に“魔力”の塊を作り出した。 「兄さん……」 「絶対に、帰ってくる。兄さんの電撃魔法の強さを、魔族の奴らに見せつけてやるんだ。父さんたちを殺したあいつらを、根絶やしにしてやる」 グランが腕をはじくと、“魔力”の塊がはじける。轟音と共に雷が起こり、龍を象った魔法が天へと昇っていった。 「きれい……」 マヤはそれを見て、涙を止めた。 「そして、笑顔で、お前の前に戻ってくる。約束するよ」 「……絶対だよ?」 「ああ。もちろんだ。マヤも電撃魔法の練習、続けておくんだぞ。魔王が死んでも、モンスターがいなくなるわけじゃないんだ。きっとその力はベルスタのために必要になる」 「うん」 「帰ってきたら、また二人で練習しよう。父さんが残した電撃魔法を、世界一にしような!」 「うん!」 二人は、夕暮れの中を歩いて城壁へと戻っていった。 「……うそつき」 ザイド・スプリングの廃屋で目覚めたマヤは、力なく言った。 |