IMMORTAL MIND
イモータル・マインド

Part 2 [Red Zero]
幕間「ロバートとミランダ」

 それまで城のベッドで気持ちよく眠っていたミランダは、ふと目を覚ました。
 オレンジ色の間接照明が部屋をぼんやり照らしている。その、すぐ下の床ではマヤが苦しそうに横たわっていた。

 ミランダは思わず息をつく。
 今日は酒が残っているとは言え、彼女はあまりにも寝相が悪すぎる。

 からみつくマヤを抱き抱えて、なんとかルーの眠るベッドに乗せると、ミランダはテラスへと出た。

 夜風が彼女の銀髪を優しくなでた。彼女は手すりにもたれかかると、酒瓶を取り出して、口につけた。

「今から飲むと明日に響くぞ」

 すぐ隣から声がした。ミランダはあえて顔をそむけて、町の夜景を見下ろした。

「なんだいロバート、せっかくいい気分に浸ってたのに。雰囲気がぶちこわしだよ」

 隣の部屋のテラスで、ほぼ同じ体勢をとっていたロバートが眉を上げた。

「らしくないじゃないか。君にそんな感傷深い一面があったとは驚きだ」
「……ハヤトは?」
「よく眠っているよ。俺たちが飲んでいる間にも一悶着あったみたいだしな……今回の目当ての男は、襲いに来ないんだな」

 ミランダは鼻で笑った。

「時と場合によるんだよ。アタシがいつも猪突猛進していると思ったら大間違いさ」
「その言葉、タウラの傭兵宿舎でも同じ事が言えたか?」

 いたずらっぽく言うロバートに、彼女は沈黙する。

「ぶん殴るよ」
「勘弁しろよ。今日はお互い、疲れてるだろ」
「まだ酒が残ってんのかい。いやに絡むじゃないか」
「もうとっくに醒めたさ。ちょっと眠れなくてな」

 ミランダはようやく、彼を見た。

「ああ、確かにね。クラーケンに、魔王軍に、空飛ぶ船、そんでもって精霊だよ。アタシたちのこれまでの人生総結集しても、今日起こったことには敵わないだろうね」
「ああ……。近頃は少しばかり麻痺していたんだが、やはり俺たちは、『蒼きつるぎ』の勇者の仲間になっちまったんだな」
「なんだよ、ビビったのかい?」
「当たり前だろ。今日だって生きた心地がしなかった」

 沈黙。
 ミランダは、酒瓶を投げてロバートによこした。

「……その……なんだ。悪かったね、こんなことに付きあわせちまって」
「タウラの鷹と呼ばれたミランダ・ルージュに謝られるとは光栄だな」

 ロバートも、酒瓶をあおった。

「その謝罪は今更なんだよ、ミランダ。俺はもう君と、ハヤト君に乗ったんだ。それでもって、見てしまった。今までに得られなかったものすごい光景を。今となってはやめたいとは思わないな」
「役立たずだった割に、楽しそうじゃないか。自己嫌悪に陥ってないだけいいけどさ」
「言ってくれるなよ。それにミランダにとうとうやってきた、本気の恋が実るかどうかも気になるしな」

 ロバートは酒瓶を投げる。
 ミランダはそれを受け取らず、瓶は地面へと落ちて割れた。

「変わらないよロバート。欲しい男を手に入れる。いつもと一緒だ」

 ロバートはにこりとして、彼女を見る。
 ミランダは眉間にしわを寄せた。

「なんだよ」
「では、そういうことにしておこうか。ミランダ、今回の獲物は大変だぜ。なにせ勇者様だからな。なんだか不思議なほど常識に疎いし、彼からは何か特殊なものを感じるんだ。マヤちゃんを始め、ライバルも強力だしな。それでも俺は、鷹の健闘と幸福を願っているよ」
「ぶっとばすよ!」

 ロバートは少しだけ笑ってから部屋に戻っていった。
 ミランダは手すりに突っ伏し、町のところどころに残された灯りをじっと見た。

「あんたは、いつもそうなんだね。ただ、見ている。見て、くれている……」

 灯りは消えることもなく、明るくなることもなく。
 ただ、道を照らし続けていた。


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