そのまま赴いたのは、彼女がよく行く武器屋だった。 「こんにちは」 レジーナは笑顔を作って入店した。 「どうも。おや、あなたのような方が武器をお探しで?」 若い店主は意外そうに言った。 「これでも、冒険者なんです」 「へえ、貴族の娘さんかと思った。それで、クラスは?」 「ヒーラーです。杖が折れてしまって、困っているの」 店主の目線がちらちらと、胸の辺りへと向かうのがよくわかる。 リノには経験したこともない快感だった。 店主は咳払いをしてから立ち上がって、先端に丸く赤い魔石のついた杖を持ってきた。 「これなんて、どうです。ランスで有名なブッフェ工房の新作ロッド。とくにこの理力¢摯揩フ魔石がとてもよく精錬されている。錬成の速度アップはもちろん、魔法効果の期待値も通常の三倍以上は見込めるでしょう」 もちろん、知ってるわよ。それ、発売する前から目をつけていたんですもの。 「……いいわね。おいくら?」 「オープン価格、四十五万ゴールドです」 レジーナは財布を出す。 「あら、残念。足りないわ」 「そうだな、少しくらいなら、まけますけど」 「ほんと。じゃあ十万でどう?」 店主はばからしい、と言ったふうに手を広げた。 「三十五万ゴールドも安くしろと?」 「うーん、私、手持ちがそれしかないの。それ、気に入っちゃったな。どうにかなりません?」 首をかがめ、上目づかいで店主に詰め寄る。しかし、このくらいの誘惑でまけてしまうようでは、王都の武器屋はつとまらない。 「三十五万なら」 「ダメ?」 レジーナはわざとらしくならないよう、おもむろに、胸の部分を少しはだけさせた。店主がつばを飲むのがわかった。彼はたしか独身のはずだ。勝算はある。 「うーん、仕方ない、二十五万で手を打とう。残りの十五万は後払いでいいよ」 「わたし、マイレムのほうに住んでいるので、王都には滅多にこないんです。残りは払えないかもしれません。もしそうなったら悪いし……しょうがない、諦めます。あーあ、残念だな。ここの店は最高のサービスをしてくれるって、友達が言ってたからわざわざ来たのに」 店主は少し残念そうにする。 「あ、いや。でも。こ、困ったな。そんなこと言われたの、初めてだ。あ、そうだ! 十万でいいのを見つくろってあげるよ」 「いえ、いいんです。その辺で探しますから。それに……店主がいい男だって話は、ホントだったから。ちょっと得したかなって。えへへ」 ズギューンと、音が聞こえたような気がした。 店主はすぐに、ブッフェ工房の新作を彼女に手渡した。 「これなんてどうだい? に、似合ってるよ」 「え? だってこれ、四十五万の」 店主は赤くなりながら言った。 「せっかく遠くから来てくれたのに、う、うちの店のサービスが悪いだなんて、思われたくないからね! これくらいは当然だよ」 「……友達に言っておきます。この店はサービスも、店主も、最高だったって」 かくしてリノは、十万ゴールドで新作ロッドを手に入れた。 「よっしゃ!」 店を出た彼女は、思わず小さくガッツポーズした。 それにしても全く、たったこれだけで三十五万も浮いたっての? 「見た目で得をしすぎ」っていうのは、こういう事をいうのよ、シャルル。 翌日、レジーナはマグン西部エリアへと向かい、とある酒場へ向かった。 入店して一直線に、カウンターへと向かう。女店主が水を出した。 「注文は」 「なにかクエストを」 少し大きめの声で言ったので、彼女は客からの視線を集めた。彼らはみな「ルーザーズ・キッチン」に集う連中とは段違いにレベルの高い冒険者たちである。ふつうだったらちらっと見るだけで、それぞれの時間に戻る彼らだったが、それがとびっきりの美女と見るや、全員が集まるようにして彼女に視線を送った。 「だいぶお急ぎのようだね」 「ええ、お金がなくて困ってるの。杖を買っちゃったから」 「クラスは」 「ヒーラー」 店主は眉間に皺をよせた。 「ヒーラーだって? この店がどういうところか、知っているのかい」 「いえ、知りません。まだ初心者なので」 「……申し訳ないけど、ここではちょっと。お引き取りを」 店主としては当然の対応である。しかし、そんなことはリノにもわかっている。 「えっ、ダメなんですか?」 「ものごとには、レベルってものがあるのよ。せめてプリーストになってから来ることね」 レジーナはひどく落ち込んだ。正確には、そういう演技をした。すると、遠目の席から横やりが飛んできた。 「おかみ。そりゃちょっとひどいんじゃないのか。彼女は初心者なんだ、何も知らないんだから、くる場所を間違えもするさ」 見ると、頑丈そうな鎧をつけた男が立ち上がって、こちらに向かってくる。それにつられるようにして、周りの人間もレジーナへと近づく。 「いえ、いいんです。本当にごめんなさい、何も知らなかったんです」 男はレジーナの体を見回す。そしてにこりと笑顔を作った。 「君、名前は。俺でよかったら、クエストにつきあうよ。それだったら文句ないだろ、なあおかみ」 「まったく、おまえたちときたら。好きにおしよ」 店主は彼らを払いのけるように腕をふった。 結局、レジーナは高レベルのパーティに守られるようにして討伐クエストに出向き、高額の報酬を得た。王都に戻ったあと、何度も彼らから一緒に宴会をと誘われたが、さっさとおさらばした。 こんなことを続けているうちに、歩いているだけで目立つ美女レジーナは、一躍マグンの有名人になった。ときおり姿を現してはクエストや買い物をするものの、彼女がどのギルドに属していて、どこに住んでいて、どんな友人がいるかなんてことは、すべて謎に包まれていた。そのミステリアスさがまた根も葉もない噂を呼び、人気を高めた。王都新聞社では彼女の情報に懸賞金をかけたが、レジーナのことを知る人間がいるわけもない。レジーナ本人にかけあおうとしても、どこにいるのかがわからないのだ。結局、新聞には「彼女はいったい何者なのか」という記事だけが掲載された。 一方リノは多くのものを手に入れていた。 他人からの羨望、賞賛、そして金。女性からは嫉妬されている節があるが、気にならない。だって立っているだけで男が自分を求め、寄ってくるのだから。 だが、そんな生活を続けるうちに、「レジーナ」であることの方が自然になってしまい、自分の中の「リノ」が、少しずつ薄れていくような気がした。 それでも、リノはレジーナであることに夢中になっていた。 彼女は今日も狭い路地裏でこっそり指輪をはめてから町に出た。近頃は王都新聞の記者がうろついているので、うかつに自分の家は使えない。 レジーナは今日はあえて、「ルーザーズ・キッチン」に寄ってみた。冒険者はほとんどが低ランクだが、やはり酒が上質なので定期的に行きたくなってしまう。 「いらっしゃい、おっ、レジーナちゃんじゃない!」 グランが大声で出迎えた。その声に反応して、見慣れたメンバーたちがこちらを見る。 ロバートがぽかりと口を開いている。ミランダとセーナは興味しんしんでこちらを伺っている。エイムス・マクドネルはすっかりできあがってしまっていて、わははと笑った。アイは、不機嫌そうにこちらをにらんだ。マスターは、満面の笑みでカウンターに手招きした。 リノとは、えらい違いね。レジーナはカウンターに座って、好きなぶどう酒を頼んだ。 「レジーナ・フィラメントに来てもらえるなんて、光栄だよ。それにしても君は珍しい酒を選ぶね」 マスターが言った。 「そうかしら。ここのぶどう酒、かなりいいわ」 「本当に珍しいよ、この三十五番が好きな子なんて、ほかに一人しかいないからさ」 レジーナははっとした。リノのことだ。 「……それって、どんな子?」 「リノっていう子さ。クラスは君と同じヒーラー。小さくて、かわいい子だよ」 「へえ。私より?」 マスターは頭をかいた。 「まいったな。もちろん、君の方が美人だろうけどね」 レジーナはグラスをあおる。当然よ。 「ふーん。それで、この三十五番って、どうしてメニューの中にあるの? 確かにおいしいけれど、わたしはたまにしかここに来ないし、ほかにはその子しか飲まないんでしょう? たった一人のために作ってるの。なんだか迷惑な話ね」 マスターは、目をつむった。 「その通り」 レジーナは、少しいらっとした自分に気がついた。 「特にこの三十五番は手間がかかるからね、実は赤字なんだ。でもね」マスターは続ける。 「リノちゃんが好きだっていうから、彼女が来てくれる限り続けるつもりだよ。もっとも、最近はあまり見かけないんだけどね。もしかしたら、この店に飽きちゃったのかなあ。なんというか……。根はいい子のはずなんだけど、どうも周りの人と線を引く癖のある子でね。このバカにもよくしてくれていたんだけどな。おいグラン、その皿はそっちの棚じゃない。いい加減覚えろ!」 その言葉は、レジーナの心に少なからず揺らぎをもたらした。 口げんかを始めたマスターとグランを見ながら、レジーナは一人酒を飲み続けた。途中、ミランダが大声で噂話をし、セーナとアイが楽しそうにその話に乗った。ロバートはエイムスとカードゲームを始め、定期的にどちらかが悲痛な声をあげた。グランはそれを見て笑いながら、レジーナに嘘くさい冒険話で気を引こうとしている。しばらくしたのち、なんだか居心地が悪くなって、レジーナは店を出た。 彼女はまたメーンストリートに出て、適当な酒場を探した。歩いているだけで、人々がこちらを見て驚いたり、「レジーナだ」と叫ぶ。寄ってくる者もいるが、すべて一瞥して、興味をなくしたように目線をずらす。 レジーナは、羨望を受けながら歩いてゆく。 しかしどうも、気分が晴れない。 どうして? 私はこの状況を楽しんでいたはずよ。 リノよりレジーナの方が、ずっといいはずなのに。 しばらくして、レジーナはふと、ある店の前までやってきていたことに気がついた。 黄ばんだ壁と薄汚れた丸い窓は、昔から変わらない。 そこは、かつてリノが通っていたバーであった。 普段のリノなら、まずこの店のある通りまで近づかないようにしているのだが、どうやら考えごとをしているうちにここまで来てしまったようだ。 だけれど、今はレジーナだ。私は、王都じゅうの話題を独占している女なのだ。 リノは決意を固め、ドアノブをひねって入店した。 「いらっしゃい」 からんからんというドアベルの音の後、薄暗い店の奥から老人の店主が出てきた。通っていた頃と比べると、ずいぶん老けこんでいる。 レジーナは店を見渡す。何人か冒険者たちと思われる集団がテーブルを囲っているが、「ルーザーズ」などと比べると、だいぶ閑散としている。 でも、懐かしいにおいがする。レジーナは自然と笑顔になった。 カウンターに腰掛け、いくらかのゴールド硬貨を置く。 「おや、この店のことをご存じかね」 無意識にやってしまって後悔した。この店では、注文をする度に金を支払うので、常連はみんなこうするのだ。 「あっ、はい。以前何度か」 店主はめがねのずれをゆっくりと直しながら、じっと彼女を見る。 「そうだったかな。それは悪かったね。注文は」 「セレアストを」 店主はまたもや、意外そうな顔をした。 「おやおや、それを知っているなんて、いよいよもって常連さんだね。でも、ごめんね。今はもうやってないんだ」 「えっ、そうなんですか……」 レジーナはがっかりしながら、別の酒を頼んだ。セレアスト。リノがかつて大好きだったここのオリジナルカクテルだ。 「君、確かにどこかで見た気がするな。すまないね、年のせいか思い出せないんだが」 「たまに来ていただけなので、印象に残っているだけでも光栄ですわ」 リノはしばし、思い出にふけりながら酒を楽しんだ。ここの酒は「ルーザーズ」と同じくらいおいしい。 からからと、ベルの音がした。同じに後方から、何人かのしゃべり声が聞こえてくる。 「いらっしゃい」 「よう、来たぜ。おっと」 レジーナ、ではなくリノはその声を聞いて思わず硬直する。まさか、このタイミングで現れるなんて。 声の主はずんずんという音とともにカウンターまでやってきて、レジーナの隣に座って硬貨を雑に置いた。一緒に来た男たちも、それに続いた。 「そこ、本当はオレの特等席なんだけどな、今日はあんたにくれてやるよ」 レジーナは、自分に話しかけてきた男を見た。 忘れもしない、この憎まれ顔。 かつての恋人、テネシー・バックスだ。 「テネシー、おまえさんなら知らないか? その子、さっきセレアストを頼んだんだよ」 テネシーは大ぶりの剣をカウンターの溝にひっかけながら、興味ありげにレジーナを見る。 「ふーん。セレアストねえ。またずいぶんとマニアックだな。確かにどこかで見たことあるぜ。こんな美人、オレがほっとくわけないしな」 「おい、その子もしかしてレジーナ・フィラメントじゃないか?」 テネシーの先に座る男が言った。店主はめがねをぐいと押し上げた。 「レジーナ……?」 「しらねえのかよ、じじい。レジーナって言えば、今話題になってる、謎の美女じゃねえか。確かに、新聞の写真で見た顔とにてるぜ」 レジーナはテネシーから視線を外してグラスをあおった。 「確かに私はレジーナ・フィラメントですけれど、何か」 男たちから、おおっと声があがった。 「マジかよ! こんな場末のバーに現れるなんて、あんたほんとに謎の女だな!」 「この店には、たまに来るの。あなたたちは?」 「オレはテネシー・バックス。ナイトをやってる。あっちがウィザードのヘッケル、プリーストのジャン」 ヘッケルとジャンはそれぞれ手をふる。もちろん、リノはこの二人のこともよく知っている。 「にしても、へんな話だな。レジーナがセレアストを知っているなんてね。もう、結構昔のメニューだぜ。それこそ、オレたちがこの店に通うようになった頃の。あんたが常連だった記憶はないな」 レジーナは少し考えて、言った。 「リノって子に聞いたの」 テネシーは、その名前を聞いてぽかんとする。 「リノ? リノって……、リノ・リマナブランか?」 「リマナブラン、デよ」 思えばこの男は、何度言っても名字をちゃんと覚えなかった。 「へえ、リノって言えば、昔よくここに来てたよね。ほら、シャルルとかもいた頃だ」 ジャンが水を飲む。 「リノちゃんねえ。これまた、懐かしい名前が出たな。なあテネシー」 ヘッケルはテネシーの肩をたたいた。 レジーナは、テネシーを見る。 うつむいている。 「リノは、あなたのことを、よく知ってるって言ってたわ」 テネシーは、顔をあげた。 「わはははっ! リノねえ! いたなあ、そんな奴。夢見がちな乙女ちゃん。それにしても、あんたらが知り合いだなんて、とんだお笑い話だぜ。二人並んで歩いたら、ある意味目立つだろうな」 ヘッケルが頷きながらテネシーを指さした。 「そういえば俺、ちょっと前に彼女を見たよ。今は南部の方に住んでるみたいだ。見た感じ、なんも変わってなかったな」 テネシーは大声で続けた。 「ガキのまま! わっはっは! あのませガキ、元気にしてるかな? 少しくらいはあんたみたいに女らしく」 そこで、彼の言葉は遮られた。 レジーナが強烈な勢いのビンタを、テネシーの頬に食らわせたのだ。 バーは沈黙に包まれた。 レジーナは硬貨をどんと置いて、席を立った。 「さよなら」 テネシーは何が何だか理解できない様子で困惑していた。 時刻はすでに深夜。街頭が寂しげに、ぽつぽつと煉瓦作りの道を丸く照らしている。 レジーナは、外に出てすぐ、こんなところに来なければよかったと思った。 久しぶりにテネシーを見て、思い出した。 あんな奴だけれど、まだ、彼を好きだった。 今でも忘れない。 彼から別れを切り出された日、愛を信じきっていたリノは、これまでの人生の中でもっともひどく狼狽した。テネシーはとくに、何も言ってくれなかった。リノはそれ以上に追求することが怖くなり、本当にあっけなく、二人の恋は終わった。 だが、少なくともリノにとってそれは、世界が崩壊するくらいのショックだった。 それからは、何かと理由をつけて自分を慰める日々。 他人とは一定の距離を作り、必要以上に関わらず、自分本位に「私はこうだから」と理想の自分像を作り、本心をひたすらに隔離した。 だが、思い出してしまった。好きだったのだ。 「それなのに、あいつときたら……元気に、やってるじゃないの。『リノ』は、あんたにとって、そのくらいの存在だったの……」 リノは、自分の指を見た。 すらっとした、レジーナの指だ。 「『リノ』は、どこにいったの。もう、私がいないじゃない。ここには、レジーナしか、いないじゃない。私って、いったいなんなのよ!」 レジーナは涙をこらえながら、走り出した。 しばらく走って息をつくと、もうそこは見慣れたサン・ストリートだった。 リノは汗をぬぐって、ぼおっとしながら歩き続けた。 そのとき、少し先に誰かがが歩いてくるのが見えた。だが、暗がりにまた消えてゆく。 「わたしは、なんなの……」 リノはうわごとのように、言い続けた。自分も暗がりに消えた。 次の街頭で、こちらに向かってくるのが誰だかわかった。 リブレ・ロッシだ。 だが関係ない。今はもう、家に帰りたい。 その次の街頭で、二人はすれ違った。 一瞬目が合ったが、レジーナはすぐに視線を外す。 リブレの足音が、遠くなっていく。 わたしは、なんなの。 音は、ぴたりとやんだ。 「……リノ?」 リブレの声がした。リノは驚きのあまり一瞬びくりとしたが、ゆっくりと振り返った。リブレがこちらを見ている。 「あっ! いえ。ごめんなさい。違った」 リブレは申し訳なさげに手を掲げて、去ろうとしたが、レジーナは「待って」と声をかけた。 「リノを知ってるの?」 リブレは振り返る。 「ええ」 「なんで、私をその子と勘違いしたわけ?」 リブレは困った表情を浮かべた。 「えーと、その。ごめんね。なんか、似てたんだ。仕草とか、雰囲気がさ」 レジーナは自虐的な笑みを浮かべた。 「そいつ、知ってるわ。ガキみたいな顔した、いけすかない女でしょ」 それを聞いて、リブレはしばらく無言だったが、しばらくして答えた。 「ますます、リノみたいだな」 「違います。私はレジーナ・フィラメント。あんただって知ってるでしょ。今話題の、謎の美女よ」 リブレはしばらく彼女のことを、まっすぐ見ていた。 「だよな。うん、まあ、知ってるよ。レジーナ。ごめん、勘違いだったみたいだ。似てたんだ。なんか寂しげなところとか、さ。あんたみたいな人でも、そんな顔するんだね」 リブレはきびすを返した。 が、すぐに腕を捕まれた。 振り返ると、そこにはだぼだぼの服を着た少女がいた。 「リノ!?」 さすがのリブレもびっくりしたようだった。 リノはうつむいたまま、外した指輪を手の中から地面に落とし、踏みつけた。そして、リブレの胸に顔を押し付けた。 「とりあえず、いまは、あんたで、いいわ。でも、だれにも、いうなよ」 リノは、かすれた声で言いながら、鼻をすすって震えだした。 |